ヨーロッパ諸国の中で最も宗教色が薄い国、エストニアとは?

エストニア

ロシアと国境を接するヨーロッパの小さな北国エストニアは、ヨーロッパ諸国の中で最も宗教色の薄い国の一つであり、国民の58%が無宗教であることが調査で分かっている。エストニア人とロシア人の民族多様性があるものの、16%を占める正教会以外には特定の宗教を信仰する人が少ない。
海外進出をする際にネックの事象の一つとなり得る「宗教」について、エストニアの事情を明らかにしていく。

ヨーロッパ諸国の中で最も宗教色が薄い国、エストニアとは?

著者:エストニアgram fellow さえきあき
公開日:2023年5月6日

人種構成

エストニアの人種構成は、エストニア人69.1%、ロシア人23.7%、その他の国、国籍不明等で残り7.3%を占めている。

(引用元:Statistics Estonia https://www.stat.ee/en/find-statistics/statistics-theme/population

エストニア人とロシア人だけで国民全体の90%を超える、ヨーロッパの中でも民族多様性があまりない国である。人種構成だけみると正教会を信仰している人が多そうに思える。実際、観光地であるタリンの旧市街の中心にはロシア正教のアレクサンドル・ネフスキー大聖堂が丘の上にそびえ建っていて、教会の影響力が大きいのだと勘違いしそうになる。

旧市街の中心に構えるアレクサンドル・ネフスキー大聖堂。玉ねぎの形の尖塔が目立つ典型的なロシア正教会だ。

しかしながら、エストニアは意外にも宗教色が薄い国だ。様々な調査でエストニアの宗教信仰具合の低さが証明されている。次項では、ある調査の結果を紹介する。

データで見る宗教の信仰具合

2021年の国勢調査によると、エストニア居住者のうちの58%が無宗教で、29%の人は何らかの宗教を信仰しているという結果だった。また、エストニアで最も普及している宗教は正教会で、16%を占めていた。

(引用元:Estonian World : https://estonianworld.com/life/orthodox-christianity-now-the-prevalent-faith-in-estonia/

2018年、Pew Research Centerがヨーロッパの34か国で宗教に関する調査を行った。調査項目は「宗教はとても大事だと思うか」「毎月宗教的儀式に参加するか」「毎日祈るか」等である。これらの項目を総合して判断した結果、宗教の信仰具合はエストニアが34か国中最下位で、調査対象の国の中で最も低いということが明らかになった。1位となったルーマニアでは、信心深い成人の割合は55%という結果であるのに対し、エストニアはわずか7%であった。

(引用元:Pew Research Center : https://www.pewresearch.org/fact-tank/2018/12/05/how-do-european-countries-differ-in-religious-commitment/

宗教信仰の強い地域

宗教色の薄い国だが、国内には特定の宗教を信仰する信心深い人たちが多い、特殊な地域がある。エストニアの最東部だ。ロシアとの国境であるペイプシ湖の西岸に、東方正教会の古儀式派の人々が住む村がある。彼らの祖先は17世紀にロシアで起こった宗教改革に反対し国外へと逃亡した人たちで、その結果ロシアとエストニアの国境付近に居を構えることになったのだ。今もこの地では昔ながらの生活を営む人たちが住んでいる。

(引用元:People Art Culture : https://www.peopleareculture.com/old-believers/

エストニアとロシアの国境にあたるペイプシ湖
エストニア国内のペイプシ湖

宗教と企業進出

どの宗教がどれくらい信仰されているのか、また信仰している人々の生活の中でどのくらい重要な立ち位置にあるのかという点は、海外進出するにあたり考慮しなければならない。例えば、正教会では私たちが普段使っているグレゴリオ暦ではなくユリウス暦でイベントや催し物が開催される。日本人が新年を祝ってお正月気分の1月に、正教会はクリスマスを祝う。そのため、もし日本の新年を祝う文化を広めたいと考えても、正教会の信仰が強い地域では困難であることが予想される。

まとめ

これまで述べてきたように、宗教は文化等を広める際の障害となり立ちはだかることが多い。イベント時期の違いや食べもの制限、宗教上の理由で禁止されている行為など、日本人的観点からすると馴染みのないこともある。しかし、ここエストニアでは宗教の信仰率が低いため、他国の文化を比較的受け入れやすい土壌ができている。遠く離れた日本のものは現地の人々にとって真新しく目に映るだろう。日本文化の進出先の一つとして、新たな候補地にエストニアが名乗りをあげる日が来るかもしれない。

エストニアの位置関係

関連記事一覧