なぜ琵琶湖?エストニア映画「8 views of Lake BIWA」
1月31日、ロッテルダム国際映画祭でエストニアの作品がワールドプレミアで公開された。作品はもちろんエストニア語なのだがタイトルは「8 views of Lake BIWA」、日本語訳をすると「琵琶湖八景」。なぜエストニアの映画に日本風のタイトルがつけられているのか。作品概要や琵琶湖との関連について探っていく。
なぜ琵琶湖?エストニア映画「8 views of Lake BIWA」
著者:エストニアgram fellow さえきあき
公開日:2024年4月11日
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三大映画祭以外にもたくさんある世界の映画祭
今回作品のワールドプレミアが行われたのはロッテルダム国際映画祭。カンヌ・ベルリン・ヴェネツィアの3つで世界三大映画祭とされているため、聞き馴染みのない映画祭のように思えるが、意外と規模も影響力も大きい。オランダの第2の都市で開かれるこの映画祭は1972年に始まった。毎年11日間の会期中に約400作品が上映され、来場者数は約28万人を記録している。近年では世界三大映画祭に次ぐ、最も重要な映画祭のひとつに数えられている。
FIAPF(国際映画製作者連盟)公認の映画祭ではないのだが、都市によっては規模はヴェネツィア国際映画祭を上回ることもあるという。
ちなみにエストニアにも「タリン・ブラックナイト映画祭」というものがあり、これはFIAPF公認のものだ。バルト三国・北欧の中でFIAPF公認の映画祭を開催するのはエストニアだけということもあり、国の規模の割には大きな映画祭となっている。こちらの来場者数は約8万人である。
出品された作品「8 views of Lake BIWA」
エストニア東側にある湖周辺に住むオールドビリーバー(17世紀にロシアでの迫害のためにエストニアに逃れてきたロシア人)たちの漁村を舞台にした作品である。8つの物語が交錯する、ジャンルとしては恋愛映画になっている。
本作品のエストニア語タイトルは「Biwa järve 8 nägu」。英語タイトルと変わりない。監督はMarko Raatで、脚本はドイツの作家が1911年に出版した同名の本に基づいている。つまり、この映画を製作するにあたり日本がモチーフとなったのではなく、元ネタである本に基づいて映画を撮ったところ、偶然日本の考え方に触れることになったと考えた方がよさそうだ。
しかし日本人といえど、「八景」が表すところの意味をよく理解していない、という人もいるのではないだろうか。八景とは、ある地域において優れた風景を8つ選ぶという評価様式のことだ。この「ある地域における八つの風景」という概念が映画の中で「ある地域(湖)における八つの風景(物語)」と拡大解釈されて使われているのだろう。
映画は既に上映が開始されている。
ロケ地はどこ?
映画といえば気になるのはロケ地。日本に関連するタイトルで「琵琶湖」と入っているのだから日本で撮影されたと思うかもしれないが、残念ながらロケ地はエストニア。エストニアで一番大きな湖であるペイプシ湖というところで撮影は行われた。この湖はちょうどエストニアとロシアの国境に位置しており、エストニア側の湖岸から15kmほど東に進むとロシアに入ることになるらしい。
ロシアとの国境にあるので、この地域は全体としてロシア正教の名残が強く残っており、湖の真横にある教会に附属する墓地ではロシア正教マークの墓碑やロシア語が見られ、国内とはいえ少しばかり異質な雰囲気を出している。
その雰囲気の理由は、古い時代にロシアから逃げてきた人たちがそのまま定住したからである。付近には観光向けの施設もあるので、もしエストニアに長期で滞在することがあれば訪問リストに入れておくのもいいかもしれない。
まとめ
エストニアの映画作品に日本の地名が出て驚いたが、実際は同名の本をエストニア版へとローカライズした作品であった。しかし、日本人でさえあまり知らない言葉を発見しとり入れ、そして再解釈することで作品へと昇華させる外国人の視点は面白い。こういった他国の言語や慣習からアイデアの着想を得るというのは、19世紀後半にヨーロッパで流行したジャポニズムを連想させる。既に発見された自国の魅力以外にも何か新しく見つけたいとなれば、第三者の新鮮な視点が欠かせないのではないだろうか。
【参考】
◇Embassy of Estonia the Hague:
https://hague.mfa.ee/marko-raads-film-8-views-of-lake-biwa-premiered-at-the-international-film-festival-iffr-in-rotterdam/
◇GALA COLLECTION:
https://www.galacollection.com/?pid=34087288
◇ERR:
https://news.err.ee/1609143941/estonian-director-brings-japanese-love-stories-to-shores-of-lake-peipus