国の無形文化遺産。ラトビアといえば、のキノコ狩り

エストニア

「ラトビアの文化にはどういうものがあるのか?」と尋ねると、十中八九ラトビア人は「キノコ狩り」と答える。ラトビア人にとってキノコ狩りをすることはラトビア人のステレオタイプであると同時に、この行為にアイデンティティを持っている。そんなラトビアのキノコ狩りを紹介する。

国の無形文化遺産。ラトビアといえば、のキノコ狩り

著者:ラトビアgram fellow さえきあき
公開日:2024年11月25日

キノコ狩りの伝統

ラトビアの人口の約半数がキノコ狩りをアクティブなレクリエーションとして好んでいるとされ、ラトビア人はヨーロッパで最も積極的にキノコ狩りをする国民であるといわれている。次いでフィンランド人だそうだ。自然のイメージが強いフィンランドの上を行くキノコ好きの国民性がうかがえる。

キノコ狩りの文化は民間で大事にされているだけではなく、国としても大切にしたい文化であることが示されている。ラトビア国立文化センターによって2023年に国家無形文化遺産にも登録された遺産は4つあったが、そのうちのひとつがキノコ狩りであった。登録の理由として、「キノコ狩りやキノコの利用は、ラトビア全土で行われている国家的規模の伝統であり、自然に関する知識や料理、その他の技術とも結びついている」と述べられている。

ラトビアの人々は、食用とそうでないものを見分ける技術を習得しており、世界でも有数のキノコ通と言われている。キノコ狩りの伝統は何世代にもわたって受け継がれ、家族や地域社会を常に結びつけている。

個人でキノコ狩りに行く危険性

キノコ狩りが大切な文化であるというくらいなら、キノコについての知識を学校等で習うのかというとそんなことは全くないらしい。たいていの場合祖父母による口述+森で実際にハントしてみる、の2段階で学習するそうだ。専門家ではないただの一般人が行うため、毒キノコを間違って採集してしまうケースが発生し、実際に死亡事故が起こっている。

知人に聞いたところ、個人でキノコ狩りに行き、自分で収穫したキノコを食べたら毒にあたって命を落とした、というニュースは毎年あるらしい。2024年9月時点では今年起こった毒キノコによる死亡事故は報道されていないが、キノコ狩りのシーズンが終了するまで油断はならない。この知人は「キノコ狩りは国民的行事として誇りに思っているが、毒キノコの可能性があるため個人的に採集したキノコは振舞われても遠慮する」と語っていた。

ちなみに、2023年はデス・キャップと呼ばれる非常に強い毒を持つキノコで中毒になった人が3人おり、そのうちの1人が死に至ったそうだ。自分は大丈夫という慢心でキノコ狩りに臨んでいるのか、それとも、危険とわかっていてもやめられない楽しさがキノコ狩りにあるのか、いずれにせよ個人でキノコ狩りに行くということは危険と隣り合わせなのだ。

キノコに関連したイベントや展示が盛りだくさん

8月には首都リガから少し離れたAugšdaugavaという場所で「The Secret Life of Mushrooms(キノコの秘密の生活)」と題された演劇があった。これはイベントの一部で、全体としてはキノコ狩りのアドバイス、料理のヒント、ラトビアにおけるキノコの文化的意義に関する講義など、キノコに関するあらゆる事柄を祝う様々なトピックを含んでいた。特筆すべきはコスチュームで、ショーの出演者はきのこのコスチュームをまとっていた。

画像出典元:LSM https://eng.lsm.lv/article/culture/culture/19.08.2024-latvian-fungus-festival-provides-mushrooms-a-la-mode.a565567/

日本では被り物のキャラクターが出てくるショーというのは馴染みがあるが、国産アニメやキャラクターが少ないラトビアでコスチュームを着て何かをする、なんてことは珍しく、それだけにキノコへのこだわりや強いアイデンティティを感じられる。

そして10月には3日間限定で「大キノコ展2024(Great Mushroom Exhibition 2024)」が開催される。当初は9月に行われる予定だったものが、気候的に満足いく種類・量のキノコが集まらないという理由で10月に延期になった。なんといっても、入場者が自分の家や近所の公園・森で採集したキノコを持っていて専門家に相談できるというのが面白い点である。相談ではなく、単に見せびらかしに持参するのもOKだそうだ。ただのオモシロイベントかと思えば、過去にはこの専門家によるコンサルテーションで貴重なキノコの標本が菌学者の手に渡ったというのだから、侮れない。

まとめ

ラトビアではキノコ狩りが国民的な文化として根付いており、約半数のラトビア人がアクティブに楽しんでいる。この伝統は家族や地域を結びつけるだけでなく、国の無形文化遺産にも登録され、文化的・経済的にも重要視されている。安全性向上のための教育や毒キノコ対策が進むことで持続的な発展が可能となり、キノコ狩りはラトビアの文化を支える重要な要素となっていくだろう。

【参考】
◇Latvijas valsts meži:
https://www.lvm.lv/en/news/4587-latvia-is-home-to-europe-s-most-active-mushroom-pickers

◇LSM:Mushrooming declared national value of Latvia
https://eng.lsm.lv/article/culture/culture/15.11.2023-mushrooming-declared-national-value-of-latvia.a531770/

◇LSM:Three death cap poisonings this summer in Latvia
https://eng.lsm.lv/article/society/health/06.09.2023-three-death-cap-poisonings-this-summer-in-latvia.a522909/

◇LSM:Latvian fungus festival provides mushrooms à la mode
https://eng.lsm.lv/article/culture/culture/19.08.2024-latvian-fungus-festival-provides-mushrooms-a-la-mode.a565567/

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エストニア在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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