エストニアの小さな大きな一歩|多文化共生を実現するナルヴァ
エストニア第3の都市ナルヴァは、住民の90%がロシア系という特殊な構造を持つ街です。この街では、行政によるエストニア語教育の推進が進められています。母語がロシア語の教師・生徒に大きな影響が出る中、言語の側面で地域アイデンティティーをどう継承するかが課題となっています。一方で、ナルヴァでは街の活性化のために公共投資が行われ、新しい教育施設や芸術家の滞在施設なども整備されつつあります。
人口減少や過疎化といった地方都市共通の課題に加え、ナルヴァには文化の多様性をいかに共生させるかという独自の問題があります。両課題を同時に解決する革新的な施策が求められる中、小さな一歩を着実に進めていく姿勢が注目されます。
ロシアが目と鼻の先なエストニア第3の都市ナルヴァ
著者:エストニアgram fellow さえきあき
公開日:2024年6月4日
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住民のほとんどがロシア系住民のナルヴァ(Narva)
人口約5万人の小さな都市がエストニアで3番目に大きな都市ということにまず驚く。エストニアは首都タリンに全人口の1/3が集中しているため、他の都市はそれと比べるとどうしても小さくなる。
そして、ナルヴァのすぐそばにはロシアがあるという地理的状況とソ連時代があったという歴史から、住民の90%以上がロシア語ネイティブスピーカー、エストニア内で1番ロシア語が通じる地域となっている。全住民の80%以上がロシア国籍を持っている。
ナルヴァからロシア(イヴァンゴロドという町)へ行くには現在橋を渡るしか方法がない。2024年の2月に車やバス等にのったまま国境を超えることが禁止されたためだ。両国間には長さ160mほどの橋がかけられており、意外と多くの人が橋を往来していることに気が付く。仕事だったり、子どもや親の世話のために往来する人が多いのだそう。
この世界情勢の中で往来が日常的に行われているのは、やはりロシア国籍を持つ人が多いからだろう。
エストニア語切り替え政策
ロシア語だけで生活できるといっても過言ではないナルヴァではあるが、国としてはロシア語よりもエストニア語の使用を推進したいため、現在教育をエストニア語で受けさせるようにすべての学校に指示を出している。以前はエストニア語で授業をする学校とロシア語で授業をする学校が別々になっていたのだが、行政はこの分け隔てをなくしすべての教育をエストニア語で行うように指示を出している。ロシア語話者が多いナルヴァも例外ではなく、その対象である。
ここで問題となっているのは、生徒だけでなく教師も授業を行うために必要なエストニア語能力を持ち合わせていないことだ。今までロシア語で教えていたものが急に第2言語、人によっては第3言語に変わるのだからその気苦労は計り知れない。一方で、言語要件を満たしナルヴァの学校で働くため移ってきた人たちもいる。
ここでもまた問題があり、ナルヴァは年々人口が縮小している都市なので近代的で綺麗なアパートを探すのが難しいという懸念点がある。フルシチョフカというソ連時代に建てられた古いアパートはあるのだが、設備が古くあまり人気のあるものではない。
街中も変化中
前述のようにナルヴァは今、教育的な面から変わろうとしている。それだけでなく公共施設への投資も積極的に行い、街を変化させていこうという試みが見られる。
小さい都市ながらも内側からイノベーションを起こそうと奮起中である。
まとめ
エストニアの小都市に大陸続きだからこその言語という問題があるが、人口減少という視点で見ると日本の地方都市と状況は変わりない。現状は積極的に行政が介入し資金源となることで、少しずつ街の様相を変化させている。小さな都市こそ個人や民間の力でなく、公共の支援が必要だ。しかし、言語の変化は地域のアイデンティティや将来の展望に大きな影響を与える可能性がある。ネイティブロシア語話者に抑圧的でないケア政策も考えていく必要があるだろう。
【参考】
◇ERR:
https://news.err.ee/1609321602/narva-has-few-apartments-to-offer-incoming-teachers