イベリア半島を襲った大停電|原因と現在の対応状況

2025年4月28日、イベリア半島(スペイン・ポルトガル)およびフランスの一部地域で大規模停電が発生した。一時サイバー攻撃の可能性も取り沙汰され、街は騒然となった。電力の半分以上を太陽光や風力といった再生可能エネルギーで賄う地域での停電だったことから、SNS上では「再エネの暴走だ」といった声も広まり、混乱が拡大した。
それから半年が経過した現在も、原因の全容は明らかになっていない。本記事では、この大停電の概要をお伝えする。
イベリア半島を襲った大停電|原因と現在の対応状況
著者:スペインgramフェロー 北田ミヤ
公開日:2025年11月20日
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ブラックアウト当日の様子
2025年4月28日、昼過ぎにイベリア半島で発生した大規模停電は、わずか20秒以内に2,500メガワット以上の発電が停止したことが引き金となり、約10時間にわたって続いた。当初、筆者は自宅マンションで工事が行われていたことから「工事の影響かもしれない」と軽く考えていたが、事態は想像以上に深刻だった。
外に出てみるとすべての信号機が点滅しており、ただ事ではないと感じた。周囲の人に状況を尋ねると、「スペイン全土に加え、ポルトガルやフランスの一部でも停電が起きている」との衝撃的な話を聞かされ、不安が一気に広がった。結局電力は夜中まで復旧せず、1日中不安な時間が続いた。
翌日の報道では、鉄道やメトロが即座に運行停止となり、駅や地下鉄構内で乗客が取り残される事態が発生したことが伝えられた。交通信号の停止により、多くの都市で交通が麻痺。クレジットカード端末やキャッシュレス決済が使えず、小売店や飲食店では現金のみの対応を余儀なくされた。銀行ATMや支払いシステムも停止・遅延し、電話やインターネット回線も途絶えるなど、通信インフラも機能不全に陥ったと報じられている。
マドリード州では『Plan 3 de Emergencias(緊急プラン3)』が発動され、住民の間では「何が起きているのか」「いつ復旧するのか」といった情報が錯綜し、混乱が広がった。

技術的事故?サイバー攻撃?構造的な政策ミス?
ENTSO-E(欧州送電系統運用者ネットワーク)による暫定報告では、今回の大規模停電の主因は、過電圧を制御できなかった送電網の不具合とされている。再生可能エネルギーそのものが暴走したわけではないが、急激な発電量の変動が引き金のひとつとなった可能性は否定されていない。
しかし、自動遮断装置がなぜ作動せず、停電がイベリア半島全域に連鎖的に広がったのかは、依然として謎のままである。本来、電圧異常が発生した際には一部地域を切り離し、全体への波及を防ぐ設計となっているはずだが、今回はそれが機能せず全国規模の停電へと発展した。この運用判断の遅れが、今後の責任追及の焦点になると見られている。
一時はサイバー攻撃の可能性も取り沙汰されたが、政府は「証拠なし」としてこれを否定。ENTSO-Eの報告でもサイバー攻撃説は除外された旨が明記されている。
今回の停電が浮き彫りにしたのは、再生可能エネルギーの是非ではなく、その導入ペースと電力網の強化・統制技術とのギャップである。発電と送電のバランスを保つ制御技術、蓄電インフラ、緊急時の運用ルールなどが、再エネ拡大のスピードに追いついていなかった。結果として、停電後にはガス火力発電の稼働が急増し、「脱炭素」と「安定供給」という二律背反の課題が改めて浮き彫りとなった。

(イベリア半島が大停電している航空写真~spacegenerationxのインスタグラムより)
現在の調査状況と今後の方針
今回の停電に関する調査は現在も進行中であり、最終的な原因や詳細、責任の所在については、依然として不明な点が多く残されている。
コミラス大学(Comillas Pontifical University)の技術研究所による学術分析では、再生可能エネルギーの利用そのものが主因ではないとの見解が多数を占めており、『過電圧の制御』『同期性の維持』『電力波・揺らぎの制御』など、送電網の運用や系統設計に関する技術的な課題が強調されている。
一方、メディアや専門家の間では、送電会社Red Electricaの運用判断や予測能力、監視・制御体制の適切性について批判が続いている。
スペイン政府のエネルギー移行省(通称MITECO)とEUの共同調査チームは、2025年末に技術報告書を発表する予定であり、それに合わせて制度面・運用面の見直しを段階的に導入する方針も示している。
まとめ
再生可能エネルギーが直接の原因ではなかったことは、ほぼ確実になりつつある。しかし、なぜ停電が全国規模にまで拡大したのか、なぜ防ぐことができなかったのか、そして誰が誤情報を広めたのかといった核心部分は、依然として不透明なままである。
政府は2030年までに電力網への投資を62%増加させる計画を打ち出しているが、資金投入だけでは信頼回復には不十分だ。今回の事態を教訓に、原因の徹底解明とともに、技術・制度・情報の透明性を高めることが強く求められている。
【参考】
◇28 April 2025 Blackout:
https://www.entsoe.eu/publications/blackout/28-april-2025-iberian-blackout/
◇Spain’s blackout mystery solved « Euro Weekly News:
https://euroweeklynews.com/2025/10/04/spains-blackout-mystery-solved/
◇! Spanish News Today – Spain Blackout: What Happened And How The Country Responded:
https://euroweeklynews.com/2025/10/04/spains-blackout-mystery-solved/
◇Five months later we continued to find things about blackouts in Spain. And every time they are worse news for Europe – Europa Express:
https://www.europaexpress.news/five-months-later-we-continued-to-find-things-about-blackouts-in-spain-and-every-time-they-are-worse-news-for-europe/
◇La Moncloa. 17/06/2025. The Government of Spain presents the report on the causes of the blackout,which was due to a “multifactorial” surge [Activity of the Council of Ministers] :
https://www.lamoncloa.gob.es/lang/en/gobierno/councilministers/Paginas/2025/20250617-council-press-conference.aspx




















