Ryanairの大幅縮小で露呈する地方空港の脆さ|スペイン

スペイン

ヨーロッパおよびスペインにおいて最多の乗客数を誇るRyanairは、空港運営会社Aenaによる空港使用料6.5%の値上げを受け、昨夏には7つの地方空港で80万席、2025年冬ダイヤにおいて約100万席の削減を発表していた。さらに、2026年夏に向けて新たに120万席の削減を実施する方針を明らかにした。

特に地方空港では約41%の削減が報じられており、キリスト教三大巡礼地のひとつとして知られるサンティアゴ・デ・コンポステーラ(Santiago)をはじめ、テネリフェ・ノルテ(Tenerife Norte)、ヘレス(Jerez)、ビーゴ(Vigo)などの地域空港において、路線の大幅な縮小や拠点閉鎖の可能性が懸念されている。

本稿では、こうした動向が浮き彫りにするスペイン航空業界の構造的課題と、地方空港の脆弱性についてお伝えする。

Ryanairの大幅縮小で露呈する地方空港の脆さ|スペイン

   著者:スペインgramフェロー 北田ミヤ
公開日:2025年11月14日

航空会社 vs 空港運営者の対立構造と背景

Ryanairはアイルランドを拠点とする格安航空会社で、コスト競争力、低運賃、追加料金による収益確保、ならびに路線網の柔軟な変更を強みとしている。

一方、Aenaはスペインの主要な空港運営会社であり、半国営的な性格を有し、地方空港を含む多数の空港を管理している。そのため、料金設定や空港運営政策においては規制・監視の対象となると同時に、公共性や地域格差、観光政策との関係性も強く、単純な市場競争原理のみでは運営が困難である。このような背景から、「手数料を高く設定すること」はモノポリー的な収益追求として批判される余地を生む。

これに対し、Ryanairは便数削減や基地撤退(拠点の撤退)の表明を通じて、空港使用料や運営条件の改善を図る圧力戦略を採っている。Ryanairはスペインの空港利用コストが欧州平均と比較して高く、競争上不利であるとの認識を示している。

同社は、Aenaが2026年に予定している「乗客チャージの6.5〜6.62%の値上げ」が過度に高額であると批判し、スペイン国内の地方空港において大幅な便数削減および基地の閉鎖を発表した。冬季2025〜2026においては、地域空港で約41%減(約60万席)、カナリア諸島で約10%減(約40万席)となる見込みで、合計で約100万席の削減が予定されている。

この対立は単なる料金設定の問題にとどまらず、独占的な空港運営体制と超低コスト経営との構造的な対立が背景にあると考えられる。

LCC撤退・規模縮小が地方空港に与える影響

LCC(格安航空会社)は、地方空港の利用拡大を通じて観光振興や地域経済の活性化に寄与してきた。しかし同時に、地域がLCCに依存する構造も生まれており、撤退や規模縮小が生じた場合、短期間で深刻な打撃を受ける可能性が高い。

短期から中期にかけての経済的影響としては、空港自体の収益悪化、観光収入の減少、飲食・宿泊・レンタカー業界における雇用の縮小が挙げられる。また、LCCの縮小が直接的な契機となり、ビジネス誘致や会議観光への悪影響を通じて企業のアクセス性が低下する事例も多い。

社会的影響や格差の観点からみると、若年層や低所得層の移動機会が失われることで教育・就業の選択肢が狭まり、地域内での機会格差が拡大する懸念がある。都市間の接続性が低下すれば地域の孤立化が進行し、長期的には人口流出圧力につながる恐れもある。

加えて、空港関連税収や観光税などに対する地方自治体の財政依存度が高い場合には、LCCの撤退が公共サービスの縮小へと波及する可能性も否定できない。

政策の選択肢は?

この対立に対して考えられる政策の選択肢は、以下の3点である。

① Aenaが地方空港向けに手数料を引き下げる、または利用者数に応じた段階的割引制度を導入すること

② 政府や自治体が地方空港の運営コストやLCC誘致に対して補助金を支給すること

③ Aenaの料金設定を監督する独立機関であるCNMC(国家市場競争委員会)の権限を強化し、料金の透明性を高めることで独占的構造を緩和すること

これらは地方路線の維持を重視する柔軟な料金政策、市場競争を促進する構造改革、公的支援によって接続性を確保する方策という3つの方向性に分類され、政策選択の主軸となるものである。

ただし、長期的に見れば、こうした単なる補助金の投入だけの政策対応では不十分である。鉄道や長距離バスとの接続強化、地方空港のハブ化による機能再設計、さらには航空以外の地域振興策との統合的な取り組みが求められる。空港の役割を再定義し、地域全体の交通・経済構造の中で持続可能な接続性を確保することが、今後の政策課題となるだろう。

まとめ

今回のRyanairとAenaの対立は、単なる運賃や手数料の争いにとどまらず、公共性と効率性のバランスを問う構造的な問題を映し出している。地方空港は地域の生命線である一方で、旅客数が少なくスケールメリットがはたらきにくいため、空港側がコストを回収するには空港使用料等の単価が高くなりがちである。その高コストを嫌った航空会社がサービスを削減し、さらに地方空港の利用率が低下することで悪循環に陥る構造が生じている。結果として、採算性という現実的な壁に直面しているのである。

Aenaによる独占的な空港運営と、Ryanairの徹底した低コスト戦略が衝突する中で、求められるのは対立ではなく制度的な調整である。持続可能な料金制度の構築と、透明性のある協議の仕組みを整備することにより、地方の航空アクセスを守る現実的な解決策を模索すべき時期に来ているといえる。

【参考】
◇Ryanair suprime 1 millón de plazas en España y AENA califica su estrategia de “chantaje” | Euronews:
https://es.euronews.com/viajes/2025/09/03/ryanair-suprime-4-bases-en-espana-y-aena-califica-su-estrategia-de-chantaje

◇Ryanair cumple con su amenaza y recorta otras 1,2 millones de plazas para el próximo verano | Economía | EL PAÍS:
https://elpais.com/economia/2025-10-08/ryanair-cumple-con-su-amenaza-y-recorta-otras-12-millones-de-plazas-para-el-proximo-verano.html

◇Ryanair elimina los vuelos a Asturias y otros 1,2 millones de asientos para el verano – Infobae:
https://www.infobae.com/espana/2025/10/08/ryanair-elimina-los-vuelos-a-asturias-y-otros-12-millones-de-asientos-para-el-verano/

◇Economist on Ryanair Cuts: Big Risks « Euro Weekly News:
https://euroweeklynews.com/2025/09/06/ryanair-vs-aena-extortion-claims-and-economic-warnings/

北田ミヤ

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スペイン在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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