日本での需要も増加 色彩とデザインが際立つスペインタイルの魅力

スペインタイル(azulejos españoles)は、幾何学的なデザインや鮮やかな色彩で知られ、スペイン文化や建築において重要な役割を担っている。実際に街を歩くと、特に歴史ある建築物の壁や階段の蹴込み板、何気なく見上げたバルコニーの裏側など、細部に施された美しいタイル張りが目を引く。
本記事では、古くから受け継がれてきたスペインタイルの歴史や伝統技法に加え、世界第2位のセラミックタイル輸出国としての側面や、日本への輸入も増加している近年の市場動向についても紹介する。
日本での需要も増加 色彩とデザインが際立つスペインタイルの魅力
著者:スペインgramフェロー 北田ミヤ
公開日:2025年7月25日
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スペインタイルの歴史
スペインタイルは8世紀にイスラム文化とともにスペインへ伝わり、中東や北アフリカの技法が持ち込まれてスペイン独自のタイル文化が形成されたと言われている。幾何学模様やアラベスク、カリグラフィーが特徴で、その美しさはアルハンブラ宮殿をはじめとする歴史的建築に見られる。
中世からルネサンス期(13〜16世紀)にかけては、カトリック王国の台頭によって宗教的なモチーフや写実的な絵柄が取り入れられるようになり、南部アンダルシア地方の主都であるSevilla(セビージャ)が生産拠点として発展した。その後、17〜19世紀には色彩がより豊かになり、タイルは教会、宮殿、邸宅の内外装に広く用いられるようになった。
現代のスペインタイル産業の中心は、バレンシア州のCastellón(カステリョン県)であり、スペイン国内のセラミックタイルの約90%がこの地域で生産され、国内セラミック企業の約81%がここに集結している。
また、セビージャのトリアナ地区も伝統的な手作りタイル文化を受け継いでおり、歴史的な装飾タイルの生産が今も続いている。

代表的な技法
スペインの伝統的なタイル技法には、イスラム文化やルネサンス以降の装飾芸術が融合した独特のスタイルがいくつもある。これらの技法はスペインタイルの装飾において重要な役割を果たし、それぞれ異なる製法や特徴を持っている。
ここでは、代表的な5つの技法を紹介する。
1.Técnica de Cuenca(クエンカ技法)
タイルの表面にくぼみを作り、その溝に色釉を流し込む技法で、15〜16世紀にかけて発展した。色が混ざりにくいため、鮮明な模様や輪郭線が表現でき、イスラムの幾何学模様やキリスト教の図像が多く見られる。
2.Técnica de Mallorca(マヨルカ技法)
白錫釉の上に筆で絵を描く技法で、イタリアのマヨルカ島に由来する。実写的な人物、風景、宗教画などが描かれ、絵画のような芸術性の高さが特徴。
3.Técnica de Arista(アリスタ技法)
クエンカ技法と似ているが、模様のエッジが型押しによって強調されたもの。多彩な色を使った幾何学模様や紋章が多く用いられる。
4.Técnica de Lustre(ルスタ技法)
銀や銅などの金属酸化物を使い、焼成後に金属光沢が生まれる技法。光の反射によって金や銅のように輝く美しい仕上がりが特徴で、バレンシア地方のManises(マニセス)で特に有名。
5.Cerámica de Triana(セラミカ・デ・トリアナ)
セビージャのトリアナ地区で生まれた伝統的な手作りタイルの総称。クエンカ技法やマヨルカ技法を取り入れつつ、鮮やかな青、黄色、緑の配色が特徴。
これらの技法は、スペイン各地の教会、城、噴水、壁画などで見ることができる。

市場規模の拡大
スペインは世界第2位のセラミックタイル輸出国であり、ヨーロッパ最大のタイル輸出業者のひとつである。近年、スペインのタイル産業は輸出量を大幅に増やしており、主な輸出先はアメリカ、フランス、イギリスなどだ。
日本においても、建築物の外装や内装におけるデザイン性の高いタイルの需要が増加しており、特にスペイン製のタイルは、その独特なデザインや高品質な仕上がりから、住宅や商業施設の内装材として人気を集めているという。インテリアデザインの多様化に伴い、日本での需要も高まり、輸入量の増加につながっているようだ。
Verified Market Researchによると、スペインのセラミックタイル市場は2024年に約30億ドルと評価され、2032年までに57.6億ドルに達すると予測されている。

まとめ
耐久性が高く、防汚性に優れ、屋内外の装飾に適しているスペインのセラミックタイルは、街並みを彩る重要な要素の一つとなっている。伝統的な独特の技法を用いた手作りのタイルは、インテリアデザインや観光地で人気があり、芸術品としての価値も高い。
一方で、革新的な素材の開発や生産プロセスの効率化にも積極的な投資が行われ、技術革新が進んでいる。これにより、大量生産品や機能重視の製品が主流となり、世界市場での競争力をさらに強化している。持続可能性やデザイン性への関心が高まる中、スペインタイルは国際市場においてさらなる発展を遂げるだろう。
【参考】
◇Spain Ceramic Tiles Market Size, Share, Scope And Forecast:
https://www.verifiedmarketresearch.com/product/spain-ceramic-tiles-market/#:~:text=According%20to%20the%20analyst%20from%20Verified%20Market%20Research%2C,subjugating%20around%20USD%203%20Billion%20valued%20in%202024.
◇スペインのタイル市場 -メーカー&ブランド:
https://www.mordorintelligence.com/ja/industry-reports/spain-ceramic-tiles-market
◇Spanish Tile History – Traditional Artisan Tiles – Latin Accents:
https://www.latin-accents.com/spanish-tile-history/
◇The Heritage Behind Spanish Tiles | Maitland & Poate:
https://maitlandandpoate.com/heritage-behind-spanish-tiles/
◇Manises – Valencia’s Ceramics Capital – Anything But Paella:
https://anythingbutpaella.com/manises-valencias-ceramics-capital/
◇Ceramic Cluster – Invest in Castellón:
https://www.investincastellon.com/en/main-sectors/ceramic-cluster/