海外の注目企業の魅力を徹底調査2022:マグナ・シュタイヤー(Magna Steyr)
世界各国の注目企業を徹底調査。今回は、自動車業界の超注目黒子企業マグナ・シュタイヤー(Magna Steyr)。2019年に世界で発売された自動車のうちの3台に2台がマグナ・シュタイヤーが作った製品とシステムを搭載。マグナ・シュタイヤー傘下のマグナ・インターナショナルの株価は、2020年だけでも約160%も上昇。
メルセデス・ベンツやBMW、日本車ではトヨタ、ホンダそして話題のソニーEV の受託生産をも行う。圧倒的技術と存在感で近年、投資家からも大注目のマグナ・シュタイヤー(Magna Steyr)とはどんな企業なのか。
話題のSONY EVをマグナ・シュタイヤーが受託生産
2022年1月4日(日本時間5日)、ソニークループの吉田憲一郎社長が米国のラスベガスで行われたIT展示会「CES」において、今春に子会社「ソニーモビリティ株式会社」を設立し、自社の電気自動車(EV)の市場投入を本格的に検討していく考えを発表しました。
これに伴い、同社は電気自動車のプロトタイプ「VISION-S 01」及び「VISION-S 02」を公開。
既にソニーグループは2020年のCESで、セダンタイプの試作車「VISION-S(ビジョンエス)」を初公開しており、この車はオーストリアのマグナ・シュタイヤーが受託生産し、車載向けCMOS画像センサーを中心に40個のセンサーを搭載したものでした。2020年1月にはヨーロッパの公道で走行テストを開始し、2021年4月より5G走行テストを開始させるなど、継続的な開発が行われてきており、2021年3月には日本でも一般公開されたこともありました。今回のSUVタイプの試作車「VISION-S 02」の公開に伴い、「VISION-S」は「VISION-S 01」へと改名されました。
「VISION-S 02」は、SUVならではの広い室内空間を活かし、エンターテインメントを体験しながら移動できるとし、7名が乗車できるバリエーションなどを通じて新しいライススタイルを検証していくとのこと。採用されているプラットフォームは、VISION-S 01と共通のEV/クラウドプラットフォームとなります。製造はマグナ・シュタイヤーが継続して担当すると見られています。
この「マグナ・シュタイヤー」を傘下に持つマグナ・インターナショナルの株価は、2020年だけでも約160%も上昇し、90ドルを超える水準に達し、投資家からも注目されている。
《関連記事》
徹底調査!海外の注目企業2022:マグナ・シュタイヤー(Magna Steyr)
著者:gramフェロー
公開日:2022年1月17日
ソニーがBEVで自動車産業に参入!SUVタイプの試作車「VISION-S 02」を発表
マグナ・シュタイヤー(Magna Steyr)とは
マグナ・シュタイヤー(https://www.magna.com/ja)はオーストリアの自動車メーカーで、本社と最大生産拠点はオーストリアのグラーツにあります。自動車メーカーと言っても、自社ブランドを持っているわけではなく、他のメーカーに代わって自動車を開発・生産すること(OEM生産)を専門としています。数多くのドライバーが、日々マグナの技術から恩恵を受けているにもかかわらず、自動車業界ではあまり知られていない企業の1つです。実は、マグナが作った製品とシステムは、2019年に世界で発売された自動車のうちの3台に2台の割合で搭載されています。マグナは自動車に対して豊富な知見を持っており、ダイムラーから日本のトヨタやホンダまで、58社(*1)の自動車ブランドに製品を供給しています。
マグナはシート、ミラーや四輪駆動システムなどの自動車部品を作るだけでなく、一から自動車を製造できる数少ない会社の一つです。今日まで、マグナは複数メーカーで全30モデル、累計で370万台以上の車を生産してきました。2021年は、15万台の自動車を組み立てる予定です。そのうち4万台が定番のメルセデスGクラスです。 現在はメルセデス・ベンツGクラス以外では、BMW 5シリーズの従来型およびハイブリッド車、BMW Z4、ジャガーE-PACE、純電気自動車であるジャガーI-PACEとトヨタGRスープラが生産ラインに投入されています。
*1 58社のリスト
Aston Martin
BAIC Motor
Beijing Automobile Works
BMW
Borgward
Brilliance China
BYD
Canno
Changan Auto
Chery
CNH Industrial
Cowin
Daimler
Dongfeng Honda
Dongfeng Limited
Dongfeng Motors
Enovate
FAW
FAW Volkswagen
Ferrari
Fisker
Force Motors
Ford Motor
Future Mobility
GAC Honda
GAC Motor
GAC NIO
GAZ
Geely Group
Great Wall Automobile
Haima Zhengzhou
Honda Motor
Human Horizons
Hyundai Motor
INEOS
Isuzu Motor
Jianghuai
Lixiang
Lucid Motors
Mahindra & Mihindra
Mazda Motor
McLaren Cars
Mercedes Benz
NIO
Qoros
Renault-Nissan-Mitsubishi
Rivian Automotive
SAIC Motor
SAIC-GM-Wuling
South-east Automobile
Stellanis
Subaru
Suzuki Motor
Tata
Toyota Motor
Vinfast
Volkswagen
WM Motor Xiaopeng
https://www.autobild.de/artikel/b-b-mercedes-g-klasse-2021-tuning-preis-gebraucht-amg-18807839.html
https://response.jp/article/img/2020/05/30/335108/1530762.html
https://www.autobild.de/marken-modelle/bmw/z4
https://www.webcg.net/articles/-/42378
https://response.jp/article/2020/10/30/339888.html
https://www.autobild.de/artikel/jaguar-i-pace-facelift-2020-vorstellung-e-suv-17004623.html
コンセプトカー
Milaシリーズは、マグナが設計・生産したコンセプトカーで、さまざまなモーターショーで発表されてきました。2015年、マグナはジュネーブモーターショーで黄色い稲妻のような「Mila Plus」というハイブリッドスポーツカーを発表しました。Mila Plusは未来のスポーツカーを予告するために作られたそうです。マグナのコンセプトカーは通常、生産予定の特定モデルを予告するものではなく、マグナが提供する高度な技術や生産能力を証明するものとなっています。
このコンセプトでは、パフォーマンスと環境への配慮を両立させたクルマを目指しました。その結果、軽量アルミニウム構造にプラグイン・ハイブリッド、ドライブトレイン(駆動輪に動力を供給する部位)を搭載したミッドエンジン・クーペが誕生しました。
Mila Plusを作ったもう一つの主な目的は、コールドメカニカルジョイニングと呼ばれる同社独自の接合方法を広めることです。それはどのような仕組みなのか。実際のところ、その詳細は明らかにされていません。詳細は産業上のトップシークレットとのことですが、Mila Plusのデザインがヒントを出しているのかもしれません。”BIW “(Body in White=塗装する前のボディシェルを指す)には、接合と組み合わせたハイブリッドプロセスが採用されています。「この信頼性の高い技術は、従来の溶接ソリューションに比べてコスト効率が高く、マグナがメルセデス・ベンツSLS AMGやアストン・マーティン・ラピードなど他の車両に採用している接合プロセスです」とマグナは述べています。
https://de.motor1.com/news/153802/magna-mila-plus-concept-car-eines-leichten-sportwagen-zweisitzers-feiert-weltremiere-auf-dem-genfer-autosalon-2015/
マグナ・シュタイヤーの強み
マグナは、その地理的な取引カバレージとサービス能力の点で業界のリーダーといえます。北米からアジアまで、世界約30カ国で展開し、大規模なOEM企業に車の部品を包括的に供給することができます。個々の自動車部品だけでなく、完全な車両システムも製造することができます。これにより、同業他社とは一線を画し、着実に市場シェアを獲得しています。マグナには強力なB2B流通ネットワークと、世界を代表する自動車メーカーとの長期契約があります。それはゼネラルモーターズ 、フォード・モーター 、クライスラー、ダイムラー 、フォルクスワーゲンです。
マグナの強みに関して、オペレーション担当副社長のスティーグラー氏は、迷わずこう答えています:
「私たちの柔軟性、サービスの範囲、そして品質です。1979年以来製造されているメルセデスGクラスのように、高級で生産が難しい車も問題なく対応できます。Gクラスはユニークなクルマです」
Gクラスと競合車との大きな違いは、ドアを製造するのに求められる技術が高いことで、これを正しく生産するのは非常に難しいことだそうです。
将来は電気自動車
マグナ・シュタイヤーは、他の自動車メーカーと同様に電気自動車への取り組みを強化しています。将来的には、国際的なサプライヤーとして、e-mobilityの流れに乗って市場に参入してくる新しい自動車メーカーの要望に対応していきたいと考えているそうです。
マグナ・シュタイヤーのフランク・クライン社長は、10年後、15年後にも内燃機関は役割を果たすだろうと予想していますが、一つだけはっきりしていることがあり、それは「車の未来は電気だ」ということであると述べています。気候変動に関する高い目標を達成するには、電気や水素を使った動力システムが必要です。しかし、そのためには、研究費やインフラなどの前提条件を政策面から支える必要があると話しています。
同社長は「ガソリンエンジンの車よりEVは開発が簡単なため新しい企業が参入しやすい。アイデアを持ってきてくれれば、マグナが開発の段階から生産までワンストップで手助けする。現在の業界のトレンドをみると、すべてがEVにシフトしている。多くの新規参入企業からアプローチを受けており、我々の開発の40~50%もEVの分野だ」と述べています。
ソニーのコンセプトカー
マグナは自社でコンセプトカーを製作するだけでなく、他社とのコラボレーションも行っています。
冒頭でご紹介した、ソニーのEV試作車もその例です。
ソニーは、マグナと協力して独自の電気自動車「VISION-S」を開発し、2020年のラスベガスモーターショーで開催されたCESテクノロジーフェアで驚きを与えました。この試作車は、「ソニーの技術開発の可能性を示すことを目的としている」と、CEOの吉田憲一郎は当時述べました。このセダンタイプの試作車には「新設計の(電気自動車)EVプラットフォーム」が採用されており、このプラットフォームはバンやSUVなどのさまざまな車種にも適用できるとのことでした。
この車は、ソニーが得意とするセンサー、イメージング、エンターテインメントを融合させたもので、ソニーの360リアリティオーディオを搭載し、「没入感のあるオーディオ体験」を実現したこの車には、車内外に40個のセンサーが搭載されています。
このセンサー技術は、道路上の危険物だけでなく、車内の乗員も検知して認識し、ユーザーはジェスチャーでエンターテインメントシステムを操作することができます。
そして2022年1月4日のラスベガスのCESにおいて、このセダンタイプの「VISION-S」が改名した「VISION-S 01」に加え、SUVタイプの「VISION-S 02」試作車が新しく公開されたことは前述のとおりです。
パパモービル
今年、マグナがフランシスコ法王のために新しい「パパモービル」を製作する予定です。パパモービルは、大きな窓のある安全な車で、ローマ教皇が快適に保護された状態で群衆の中で水浴びをするために特別に設計されたものです。
バチカン市国は、フランシスコ法王の新しい乗り物として、アメリカのメーカーであるフィスカー社の電気自動車を選びました。しかし、フィスカー社は自社で車を製造せず、グラーツで製造しています。これが最初の電気自動パパモービルになります。
この車両は、サステナブル(持続可能)な素材をふんだんに使用し、価格は4万ユーロ(日本円で500万円強)以下を予定しています。「グリーン」ラベルの付いたこのe-carは、「ビーガン 」であることが前提となっています。動物の革を使わず、プラスチックは海からのリサイクルプラスチックを使用しているため、この名前になっています。屋根に設置された太陽光電池は、バッテリーを追加充電するためのものです。
将来のコラボレーション アップル
また、マグナがアップル、LGと提携してアップルカーを作るという一部報道もあります。
LGはEVのバッテリーやパワートレインに精通しており、マグナは生産に関する専門知識をアップルのプロジェクトにもたらします。アップルの自動車チームは、ユーザーが目的地を入力すると、そこまで 「ほとんど、あるいは全く関与することなく 」運転されるような自動運転車の開発を目指していると言われています。
2024年初頭に最初のプロトタイプが登場する予定です。
まとめ
以上、自動車業界では唯一無二の存在感を誇る、マグナ・シュタイヤーを見てまいりました。
日本での知名度は必ずしも高いとは言えない状況ではありますが、自動車産業が成熟している日本にとって無くてはならない企業です。
また、ソニーやアップルなどのEV市場参入検討をきっかけとして、自動車業界で開発・生産の分担を行う「水平分業」の機運が高まってきており、同社の存在がますます重要となってくる可能性が大きいといえます。
引用元・参考リンク
https://www.mbaskool.com/brandguide/automobiles/13191-magna-international.html
https://www.dailysabah.com/business/automotive/sony-wont-mass-produce-its-vision-s-electric-concept-car
https://www.kleinezeitung.at/wirtschaft/5984112/FiskerSUV-aus-Graz_Ein-EAuto-fuer-den-Papst_Neues-Papamobil-wird
https://www.autoevolution.com/news/magna-mila-plus-concept-debuts-at-geneva-motor-show-2015-live-photos-92957.html
https://www.macrumors.com/roundup/apple-car/
https://www.macwelt.de/news/Magna-und-LG-sollen-Apple-Car-bauen-Prototyp-2024-11013726.html
https://www.cnet.com/roadshow/news/apple-car-lg-magna-ev-production/
https://www.magna.com/ja/%E4%BC%9A%E7%A4%BE/%E4%BC%9A%E7%A4%BE/%E8%B3%9E
https://de.m.wikipedia.org/wiki/Magna_Steyr
https://www.businessmonat.at/november-2020/der-weg-zum-global-player
https://www.kleinezeitung.at/wirtschaft/6007286/Bei-MagnaSteyr_Rekordfahrt_Noch-nie-wurden-in-Graz-so-viele
https://industriemagazin.at/a/magna-steyr-baut-neues-papamobil-fuer-papst-franziskus
https://auto.oe24.at/news/magna-steyr-setzt-noch-staerker-auf-elektroautos/461966506
https://www.automotivemanufacturingsolutions.com/flexible-friend-at-magna-steyr/6622.article
https://www.motorauthority.com/news/1097013_magna-mila-plus-concept-combines-performance-with-eco-friendliness
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-01-05/R57RDTDWLU6F01
https://www.faz.net/aktuell/wirtschaft/auto-verkehr/vision-s-02-sony-prueft-den-verkauf-von-elektroautos-17716344.html
https://car-moby.jp/article/news/new-model/sony-vision-s-02-world-premiere/
https://news.kakaku.com/prdnews/cd=kuruma/ctcd=7010/id=114508/
https://response.jp/article/2022/01/06/352858.html
https://www.businessinsider.jp/post-233464
《関連記事》