イギリス一人気のパン屋 Greggsの成功の秘訣|ターゲットセグメンテーションの力

北米

英国においてGreggsは、圧倒的な人気を誇るパン屋としてその名を刻んでいる。その人気は、民間リサーチ会社YouGovの英国全土を対象にした「イギリスで一番好きな飲食店ブランドは?」という調査での人気No.1獲得に裏付けされる(2023年9月時点。参考に、世界的企業のマクドナルドは12位)。

Greggsは1939年に一軒の小さなパン屋から始まり、その後の数十年で大規模に成長、2022年12月決算時点では英国全土で2,300以上の店舗を擁し、売上高は15億ポンド(2,700億円)に達した。そんなGreggsのビジネスモデルを紹介するとともに、英国の飲食業界において成功するためにはどのような要素が欠かせないのかを考察していきたい。

イギリス一人気のパン屋Greggs

    著者:イギリスgram fellow 舘野和佳奈
公開日:2023年11月6日

Greggs基本情報から見える、イギリス人の食文化

(画像出典元:Greggs Corporate https://corporate.greggs.co.uk/

(引用元:YouGov(2023)
https://yougov.co.uk/topics/consumer/explore/brand/Greggs?content=all

 
創業者/現CEOJohn Gregg/ Roisin Currie
業種ベーカリーチェーン
企業理念すべての人にできたての食事を提供する
売上£15億ポンド(2,700億円)(2022年12期)
店舗数2,328(マクドナルドUKは1,403)
従業員数26,928人 (2023年現在)
ターゲットセグメンテーションQuick&Easyな朝食・ランチを好む顧客層
チャネル構造・中央工場で一括生産後、各店舗へ配送。
・店舗では、対面販売の他、自社オンラインシステムを通じたクリック&コレクト、デリバリーサービス(Uber Eats、Just-Eat)を使った配達も行う。
Greggs基本情報

(引用元:MarketLine (2023) https://advantage.marketline.com/Company/Summary/greggs_plc

(引用元:Greggs Corporate (2022) https://corporate.greggs.co.uk/

(引用元:Scrape Hero (2023) https://www.scrapehero.com/location-reports/McDonald%27s-UK/

ここで注目すべきはターゲットセグメンテーションである。筆者の知人、トム(22)はかつて「Greggsの味は正直特別じゃないけど、さっさと食事を済ませたいときについつい行っちゃうんだよね」とつぶやいていた。

このトムの言葉に、Greggsのターゲティングの妙が表れている。Greggsは、ランチやスナックには「機能性」(スピード感、手軽さ)が重要で味はあまり気にしない、というイギリス人の性質を理解し、それにマッチしたサービスを提供しているのである。

GreggsのSWOT分析

Strength(強み)Weakness(弱み)
・イギリスでの高い知名度
・イギリス主要駅を網羅する店舗展開
・安定したコストカット戦略
・ブレグジット、パンデミック、また近年の急速な営業拡大に伴う人員不足
・デジタルマーケティング不足
・イギリス国内市場への依存
Opportunity(機会)Threat(脅威)
・店舗へのデジタルツールの導入による人員不足解消
・海外進出
・若者の食文化の変化
・イギリス飲食業界の低成長性
GreggsのSWOT分析

安定したコストカット戦略

イギリスでの高い知名度、成熟した店舗展開は前述のとおりであるが、さらにGreggsといえば商品の安さでも知られている。それは徹底したコストカットによるものであり、その成功の要因として生産の中央化とサプライチェーンの自社管理が挙げられる。

これらはビジネスの基本ともいえる戦略であるが、基本に忠実である結果コストを抑えることに成功、売上高当期純利益率は2022年の12月期において10.2%に達した。これは、グローバル業界平均(3-5%)と比較して高い位置にある。

(引用元:Greggs(2023) https://corporate.greggs.co.uk/about-us/our-strategy

(引用元:Toast (2023) https://pos.toasttab.com/blog/on-the-line/average-restaurant-profit-margin

テクノロジー大国イギリスの可能性

2020年はブレグジットとパンデミックの影響で商品輸送ドライバー不足が問題となり、Greggsの店舗では商品供給にトラブルが続出した。さらに、2023年に夜間営業店舗(23時まで営業している店舗)数を300から500に増やすという大胆な試みを行っており、スタッフ不足が課題となっている。

Greggsはこの問題に真剣に取り組んでおり、デジタルテクノロジーの導入を加速させることを決定した。具体的には、デジタルオーダーパネルやデジタルメニューなど、デジタルツールの店舗への導入が進行中である。イギリスでは、スーパーマーケットなどで無人のレジが普及しており、顧客はこれらのテクノロジーを受け入れやすい状況にある。

(引用元:O’Halloran(2022) https://www.computerweekly.com/news/252520726/Greggs-bakes-SD-WAN-into-shops-of-the-future

(引用元:Institute For Government (2021)
Institute For Government (2021) https://www.instituteforgovernment.org.uk/explainer/supply-chain-problems

(引用元:World Coffee Portal (2023) Greggs to extend drive-thru, delivery and opening hours following strong 2022 sales – World Coffee Portal
https://www.worldcoffeeportal.com/Latest/News/2023/March/Convenience-focus-boosts-Greggs-2022-sales#:~:text=The%20chain%20plans%20to%20extend,%25%20of%20Greggs’%20total%20sales.

イギリス若者の食文化の変化

Greggsが現在好調な業績を維持している一方で、将来的に待ち構えている課題もある。2020年時点では、57%もの顧客が40歳以上であるとされ、顧客の高齢化が進行していることが指摘されている。これは、Greggsが伝統的な多店舗戦略に依存し、デジタルマーケティングを十分に活用していないのに影響されているのかもしれない。

逆を言えば、若い世代を引き寄せるためには、デジタルマーケティングが不可欠である。彼らは目に入った店舗に入るのではなく、TikTokやInstagramなどの広告を通じてデリバリーサービスを利用するスタイルが増えている。

実際、イギリスのオンライン・フードサービス市場は2025年に約300億ポンド(5兆4,000億円)に達すると言われているが、これはコロナ前の2019年の約3倍の水準である。

さらに、MarketLineの調査によれば、イギリスのフードサービスセクターは、インフレーションや人口減少といった要因により、次の5年間で急激に成長率が低下すると予想されている(グラフ1参照)。これらの負の要因も考慮すると、Greggsは従来の顧客層に依存せず、新たな市場を開拓する必要性が高まるだろう。

グラフ1: United Kingdom foodservice industry volume forecast: million transactions, 2022–27

(引用元:MarketLine (2023)
https://advantage.marketline.com/Analysis/ViewasPDF/united-kingdom-foodservice-185399

(引用元:Shakespeare (2020)
https://yougov.co.uk/topics/consumer/articles-reports/2020/02/26/greggs-gifts-stormzy-vip-card-tap-younger-market

(引用元:Savills Commercial Research (2022)
https://pdf.euro.savills.co.uk/uk/commercial-retail-uk/spotlight-uk-grocery—january-2022.pdf

これらの課題をクリアしていくことが、今後のイギリス飲食業界での生き残りの鍵となる。

※1ポンド180円で計算

舘野和佳奈

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イギリス在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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