SWOT分析、5フォースモデルでRolls-Royceいまを分析|自動車メーカー?いえ、実は航空宇宙機器メーカー
Rolls-Royce Holdings(ロールス・ロイス)といえば、世界では高級自動車メーカーとして知られており、日本でも知名度が高い。その歴史は、1904年にCharles RollsとHenry Royceが共同で自動車の開発を進め、同年12月に最初の自動車である10hpをパリモーターショーで発表したことに遡る。
しかし、現在ロールス・ロイスを支えるのは自動車部門ではなく、航空エンジン製造・軍用機エンジンと艦船用ガスタービンを主力事業とする航空宇宙部門だ。なんと企業売上127億ポンド≒2.3兆円(2022年12期)の約9割が航空宇宙部門である。
イギリスを代表する大型老舗企業のロールス・ロイスであるが、現在岐路に立たされている。以下、SWOT分析、ポーターの5フォースモデルを使用し、彼らがどのような状況にいるのか分析したい。
(引用元:Rolls-Royce :Investor Relations
https://www.rolls-royce.com/investors.aspx)
(引用元:Rolls-Royce :Rolls-Royce Holdings Plc 2022 Full Year Results
https://www.rolls-royce.com/media/press-releases/2023/23-02-2023-rr-holdings-plc-2022-full-year-results.aspx)
Rolls-Royce:自動車メーカー?いえ、実は航空宇宙機器メーカー
著者:イギリスgram fellow 舘野和佳奈
公開日:2023年11月6日
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ロールス・ロイスのSWOT分析(市場動向・企業内部分析)
Strengths | Weaknesses | Opportunities | Threats |
・優れた製品と技術力 ・長い歴史とブランド力 ・航空宇宙部門と自動車部門のシナジー | ・コスト高の製品 ・ 電動化への対応が他社比遅い ・新興国メーカーとの価格競争 | ・新興国の富裕層市場の拡大 ・環境規制への対応による「排出枠」の獲得 | ・環境規制の強化(CO2排出削減目標達成の必要性) ・代替技術(航空機の電動化等)の登場 ・世界的な景気減速による需要減少 |
(引用元:University of Reading :Master’s Degree Programme in Management
http://dspace.unive.it/bitstream/handle/10579/22378/866744-1267698.pdf?sequence=2)
(引用元: https://strategicmanagementinsight.com/swot-analyses/rolls-royce-swot-analysis.html)
ロールス・ロイスのポーターの5フォースモデル(業界の競争状態)
Threat of new entry (middle) ・航空機エンジンの開発には多額の資金と技術力が必要であり、参入障壁が高い。 ・中国やインドなどの新興国メーカーの参入可能性あり。 | |
Threat of substitution (middle) ・航空機エンジンの代替品として、電動航空機の開発が進んでいる。 ・電動航空機は、従来の航空機に比べて、騒音や排気ガスが少ないというメリットがあるが、実用化には時間がかかる。 | |
Supplier power (high) ・航空機エンジンの製造には、多くの部品や材料が必要。 ニッチな部品や材料の供給業者は、ロールス・ロイスに強い交渉力を有す。 | |
Buyer power (high) ・航空機エンジンの買い手である航空会社や軍隊は大規模な発注を行うことができるため、強い交渉力を有す。 ・そのため、ロールス・ロイスは、買い手のニーズを満たすための品質や価格競争力が必要となる。 | |
Competitive rivalry (high) ・航空機エンジン市場は、GE Aviation、Pratt & Whitney、Safran Aircraft Enginesなどの大手メーカーが競合する寡占市場である。 ・そのため、競争力を維持するためには、継続的な技術革新やコスト削減が必要。 |
(引用元:Porter Analysis https://www.porteranalysis.com/porters-five-forces-analysis-of-rolls-royce-holdings/)
(引用元:Rolls-Royce Porter’s 5 Five Forces: 2022 Detailed Analysis
https://www.portersfiveforces.org/rolls-royce-porters-five-forces/?utm_content=cmp-true)
電動航空機の台頭
企業分析の基本として、複数のモデルから浮かび上がってくる「共通の課題」を認識することが重要である。ロールス・ロイスの場合、両モデルに共通しているのは航空機の電動化というキーワードだ。著者の過去の記事「イギリスの自動車業界分析(要修正)」に記載の通りであるが、世界は炭素削減に向かっており、特にイギリスはリーディングカントリーである。そのような外部動向から、ロールス・ロイスの航空機エンジン開発も大規模な方向転換を強いられている。
しかしながら、電動航空機の開発は、同社にとって新しい分野であり、技術力やノウハウの蓄積が不足している状況だ。具体的には、以下の課題が挙げられる。
- 電動航空機の推進システムの開発
- 高出力・長航続距離の電動航空機エンジンの開発
- 電動航空機の安全性・信頼性の確保
ロールス・ロイスは、これらの課題を克服するために、2020年に電動航空機事業を立ち上げ、次世代電動航空機エンジンの開発を進めている。しかし、他のメーカーに比べて、立ち遅れているのが現状である。
例えば、GE Aviation (GEアビエーション)は、2022年に電動航空機エンジン「GE Catalyst」を発表したが、このエンジンは、2024年から試験飛行を開始する予定である。Pratt & Whitney(プラット・アンド・ホイットニー)も、2023年に電動航空機エンジン「Pratt & Whitney PurePower PW800」を発表し、2026年から試験飛行を開始する予定だ。ロールス・ロイスは、これらの競合他社との競争に勝ち抜くために、電動航空機エンジンの開発を加速させ、早期の実用化を目指すことが重要となる。
(引用元:Rolls-Royce :Rolls-Royce advances hybrid-electric flight with new technology to lead the way in Advanced Air Mobility
https://www.rolls-royce.com/media/press-releases/2022/22-06-2022-rr-advances-hybrid-electric-flight-with-new-technology.aspx?sc_lang=en)
(引用元:Rolls-Royce :Electrical | The Future of Flight
https://www.rolls-royce.com/products-and-services/electrical.aspx)
(引用元:Rolls-Royce :A next step in electrification – commuter aircraft
https://www.rolls-royce.com/media/our-stories/discover/2021/a-next-step-in-electrification-commuter-aircraft.aspx)
(引用元:エミレーツ航空のプレスリリース :エミレーツ航空、GEアビエーションとCO2排出量削減に向けて100%持続可能な航空燃料を使用した試験飛行プログラムを発表
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000136.000052636.html)
(引用元:wikipedia(英) :Pratt & Whitney Canada PW800
https://en.wikipedia.org/wiki/Pratt_%26_Whitney_Canada_PW800)
ロールス・ロイスの自動車部門は?
ロールス・ロイスの自動車部門は、2023年6月に初の電気自動車「スペクター」を発表した。この車は、ロールス・ロイスの伝統的なデザインと、最新の電動化技術を融合させたモデルである。さらに、ロールス・ロイスは、2030年までにすべてのモデルを電動化する計画を発表した。この計画は、イギリス政府のzero emission vehicle(著者の過去記事「イギリスの自動車業界分析(要修正)」参照)という方針にも合致しており、自動車部門は一先ずよさそうだ。
(引用元:ロールス・ロイス 電気自動車 スペクター 2023年6月 発表
https://bing.com/
)
(引用元:Car Watch :ロールス・ロイス、同社初の新型EV「スペクター」発表 2023年第4四半期に市場投入
https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1354519.html)
まとめ
航空宇宙部門、自動車部門にしても、電動化技術の開発の加速が急務である。また、コスト競争力を高めるための生産効率化の推進も必要である。最近は中国やインドなどの新興市場でも存在感を高めており、売上は好調であるが、これらの課題をいかに解決できるかが今後の鍵となるだろう。
※1ポンド180円で計算