Wise Payment Limited|国際送金を変革するフィンテック企業をビジネスモデルキャンバスで分析
2010年に設立されたWise(旧TransferWise)は、国際送金サービスを提供するフィンテック企業である。国際送金が格安(なんと銀行の8分の1)でできるということで、海外駐在・留学を経験したことがある人にとっては馴染み深いサービスだ。
ロンドンに本拠を置くWiseは2021年に79億ポンド(1兆4,220億円)の企業価値を達成し、ヨーロッパ有数の価値のあるフィンテック企業の1つとしての地位を確立した。
「Wise 国際送金 やり方」というキーワードで検索をするとたくさんのサービス解説記事が出てくるが、Wise Payment Limitedとしての知名度は日本では低い。
本記事では「ビジネスモデルキャンバス」を用いて、Wiseの革新的なビジネスモデルを分析し、今後の成長可能性を評価する。
(引用元:Wise (2023) https://www.wise.com/gb/pricing/send-money)
(引用元:Wikipedia (2023) https://ja.wikipedia.org/wiki/Wise_%28%E4%BC%81%E6%A5%AD%29)
Wise Payment Limited: 国際送金を変革するフィンテック企業
著者:イギリスgram fellow 舘野和佳奈
公開日:2023年12月29日
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Wise Payment ‐ Wiseを通じて世界はより賢くなる
(引用元:Can you take payments online with Wise? – Wise
https://wise.com/gb/blog/how-to-take-payments-online)
創業者 | Taavet Hinrikus、Kristo Käärmann |
本拠地 | 英国ロンドン |
主要拠点 | Tallinn, Estonia; Tokyo, Japan; Singapore; Melbourne, Australia; and Tampa, USA |
サービス | 国際送金、多通貨アカウントの提供 |
企業理念 | Sending money abroad shouldn’t feel like a mystery |
ユーザー数 | 1,000万人、2021年時点 |
送金額 | 月50億ポンド(9,000億円)、2021年時点 |
資金調達 | Andreessen HorowitzやSapphire Venturesなどから5億4,200万ドル(813億円)を調達済 |
創業者のTaavetとKristoが、銀行を通じた国際送金が高コストで不便に感じたのをきっかけに起業し、冒頭の通り、銀行と比較して格安のコストでの送金を可能にした。また、「Sending money abroad shouldn’t feel like a mystery」(海外への送金は謎のように感じるべきではない)というスローガンを掲げ、手数料や為替レートを完全公開するなど、透明性の高いサービスでユーザーから支持されている。
さらに「Wiseを通じて世界はより賢くなる」という意味を込めて、2021年にサービス名をTransferWiseからWiseに変更。ユーザーに多通貨アカウントを提供することで、国境の垣根なくし、世界を活性化しようとしている。
(引用元:Reuters (2021) https://www.reuters.com/technology/wise-founder-creates-tech-billionaires-club-direct-listing-2021-07-07/)
(引用元:Pymnts (2021) https://www.pymnts.com/news/international/2021/wise-transferwise-rebrand-expansion/)
(引用元:Crunchbase (2023) https://www.crunchbase.com/organization/transferwise/company_financials)
(引用元:Wise (2023) https://www.wise.com/gb/about/our-story)
(引用元:Wise (2023) https://www.wise.com/gb/about/contact)
(引用元:Wise (2023) https://wise.com/gb/multi-currency-account)
Wiseのビジネスモデルキャンバス
ソース: 参考文献を用いて著者作成
(引用元:Wise (2023) https://wise.com/partners)
(引用元:The Fintech Times (2021) https://thefintechtimes.com/transferwise-how-does-it-make-money/)
Wiseはどのように低い手料金を実現しているのか?
ビジネスモデルキャンバスのValue Propositions (その企業が市場に提供する「価値」)で示す通り、Wiseの顧客にとっての「価値」は格安な送金手数料だ。Wiseが大手銀行よりもはるかに安く国際送金サービスを提供できるのは、独自の革新的なPeer to Peer送金モデルによる。ユーザーが送金を開始すると、Wiseは2つのアカウント間で直接送金する代わりに、銀行パートナーを利用して双方向の送金ニーズをマッチングさせる。
例えば、イギリスの銀行Aから日本の銀行Bに100ポンドの国際送金が発生した際、日本の銀行Cからイギリスの銀行Dの似た金額での取引をマッチングさせる。そして、実際にはイギリスの銀行Aから銀行Dの国内送金、日本の銀行Cから銀行Bの2つの国内送金を処理し、インターナショナルコストを省いているのである。ここに、さらにパイオニアとして得たたくさんの取引量が重なり、規模の経済性を効かせられる。
また、フィンテック企業であるがゆえに、銀行のような過去のレガシーシステムに関連するコスト(旧式のコンピューターシステムや不要になった実店舗の維持)に悩まされないスリムな企業構造もコストカットに寄与している。
もう一点、コストカットの面で言及したいのが、ビジネスモデルキャンバス中のCustomer Relationship(顧客との関係構築の仕方)である。ご覧の通り、カスタマーサービスに人材を割いていないため、人件費を大幅に削減できるのである。
しかしながら、これは諸刃の剣となり得る。日本のB to Cビジネスの典型例である「コールセンター」が存在しないので、日本人のようなきめ細やかなサービスに慣れている顧客セグメントにとってはロイヤルティの欠如につながりかねないのだ。
(引用元:Wise (2023) Wise (2023) https://www.wise.com/gb/currency-converter)
Wiseの今後の可能性。銀行はWiseに成り代わるのか?
急成長してきたWiseであるが、以下の観点から更なる成長が見込める。
・中小企業向け新製品の投入
・デジタル決済を好む若年層での認知拡大
・米国-メキシコルート等の、送金が多い地域への地理的拡大
WiseのビジネスパートナーのひとつであるXeroは、クラウドベースの会計ソフトウェアを提供する企業で、WiseはXeroのソフトウェアに連携するかたちで彼らの顧客に国際送金サービスを提供している。このようなパートナーシップを利用した新たなサービス拡大が、Wiseの今後の成長の鍵となるだろう。
一方で、銀行の送金サービス改善、類似サービスの登場による競争の激化が脅威となりえる。しかし、銀行がWiseほどのコストカットを実現できる可能性は高くない。Wiseがカスタマーサービスの失敗などで顧客ロイヤルティを失わない限りは、成長を続けると見込まれる。
(引用元:Business Review (2021)
https://business-review.eu/technology/fintech-company-revolut-joins-forces-with-wise-to-expand-its-services-in-europe-232485)
(引用元:Pymnts (2021) https://www.pymnts.com/news/international/2021/wise-transferwise-rebrand-expansion/)
(引用元:Craft (2023) https://craft.co/wise/competitors)
(引用元:Wise (2023) https://wise.com/partners)
(引用元:Wise (2023) https://wise.com/gb/business)
※1ポンド180円、1ドル150円で計算