「世界の薬局」インド、国産ワクチンで外交攻勢

インド

インドが「世界の薬局」であることをご存じない方もいらっしゃるかもしれないが、インドはジェネリック医薬品の最大の生産国であり、世界の生産量の20%を占めており、ワクチンの世界的な需要の62%を満たしている。
コロナ禍において、インドは医薬品やジェネリック医薬品を他国に供給する最前線にいる。

「世界の薬局」インド、国産ワクチンで外交攻勢

著者:gram 福田 さやか 
公開日:2021年2月3日

国別概要情報 インド(India)

インドは自国民のために10億回以上の投与が必要となるが、これに加え、この春までにインドは近隣諸国であるネパール、バングラデシュ、スリランカ、アフガニスタン、セイシェル、モーリシャスに2000万回の投与を提供することを目指しているという。また、その後、中南米、アフリカ、ロシアにワクチンを配布する予定である。こうした国々では、インドとの間で政府間のワクチン協定を結び、接種数を確定し、無償資金援助で提供するのか、商業的条件で提供するのかを決めている。海外への商業的な出荷は3月頃から始まると思われるが、インドはすでにバングラデシュ、ネパール、ブータン、モルディブに320万回分のワクチンを無料で送っている。
このように、インドは外交攻勢をワクチンでかけている。これは、中国に対峙する思惑もありそうだ。中国は、ワクチンの配布で国際競争力をあげる「健康シルクロード構想」の中に、ワクチンの配布を明示的に盛り込んでいるという。

現在、インドで接種が進められているワクチンには2種類あり、開発と製造をいずれも国内で行った純国産のものと、欧米のワクチンをベースにインドで製造するものである。具体的には、インド企業バーラト・バイオテックがインド政府系機関と共同開発した純国産の「コバクシン」。もうひとつは、英製薬大手アストラゼネカと英オックスフォード大学が共同開発し、国内のセラム・インスティチュート・オブ・インディアが製造する「コビシールド」。数カ月以内には、別の2つのワクチンの使用も認可される見通しである。

いずれにしても、インド産ワクチンの価格は欧米産のワクチンの価格の1割程度と非常に安価であり、高価なワクチンを購入できない途上国にはうってつけのものであるといえる。

ただ、性急な認可によって安全性が確保されていない、という懸念は、インドの国民の間で非常に多くささやかれている。コバクシンは、政府は「110パーセント安全」であると主張しているが、まだ第Ⅲ相試験を完了していない。副作用は一般的に恐れられており、重篤な反応や死亡例もいくつか報告されている。メディアでも広く報道されており、FacebookやWhatsAppでも大騒ぎになっている。

そうした懸念もありながらではあるが、インドはその製薬業界での実績と能力を使い、世界第2位の人口に対する接種を実現し、さらには周辺国へのワクチン外交も繰り広げるという力強い動きを見せている。ワクチン外交を繰り広げている中国へのけん制にもなるかもしれず、アメリカ等もインドの動きを歓迎するなど、各国の駆け引きが繰り広げられている。 コロナへ打ち勝つための世界的な協力というムードはあまりなく、各国の開発競争、囲い込み競争の様相を呈しているが、コロナに立ち向かう上では、そのような各国の思惑をうまく利用し、多様な選択肢を持っていくしかないのかもしれない。

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福田 さやか

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