アルゼンチンへの熱い思い!バングラデシュがW杯で見せた応援の真意とは
2022年12月にカタール・ドーハでFIFA主催のW杯が行われ、アルゼンチンが決勝でPK戦の末フランスを破り優勝した。バングラデシュでは自国代表が出場していないにもかかわらず、熱狂的な盛り上がりを見せた。ダッカ市内では至る場所でパブリックビューイングが設置され、多くの市民が盛り上がった。また、全国各地で出場国の国旗が掲げられ、レプリカユニホームを着用する市民の姿が多く見られた。本記事では、バングラデシュ国内の人気スポーツとW杯の盛り上がりの背景について紹介していく。
アルゼンチンへの熱い思い!バングラデシュがW杯で見せた応援の真意とは
著者:インドgram fellow 田中志歩
公開日:2023年6月18日
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バングラデシュの人気スポーツ
W杯の盛り上がりの背景を紹介する前に、バングラデシュの人々の間で人気のスポーツについて紹介する。
①クリケット
バングラデシュで最も人気なスポーツはクリケットだ。英連邦諸国を中心に行われ、競技人口はサッカーに次いで世界第2位のスポーツである。インドやパキスタン、スリランカなどの南アジア諸国で圧倒的な人気を誇る。バングラデシュも例にもれず、1999年から毎回W杯の出場権を獲得している。
(参考文献:日本クリケット協会 https://cricket.or.jp/about-cricket)
②カバディ
バングラデシュの国技であるカバディも人気スポーツの1つだ。カバディの歴史は古く、紀元前、獣に対し武器を持たず数人で囲み声を揃えながら戦う技術、獣から身を守る方法がスポーツへと成熟していったものだとされている。インドを中心とした南アジアで人気のスポーツだ。しかし、バングラデシュ国内では近年、他スポーツの人気の高まりによってカバディの人気は低迷してしまっている。
(参考文献:SPOLABO https://spolabo.com/I0004198)
③サッカー
クリケットに次ぐ人気のスポーツがサッカーだ。サッカーは近年人気が増してきたスポーツである。しかし、国内にはプレミアリーグが存在するものの、未熟な運営体制などから財政的に弱いクラブが多い。また、自国代表チームはいまだW杯に出場したことはない。サッカーは国際大会が行われるたびに一過性の盛り上がりを見せる傾向にあるという。2022年のW杯もその一過性の盛り上がりだと思われる。その一方で、その盛り上がり方は情熱的で、家に自分が応援している国の旗を掲げたり、その国のユニフォームを日常的に着たりなどする。
(参考文献:JETRO https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/12/ada9519b4f8f48b2.html?_previewDate_=null&_previewToken_=&revision=0&viewForce=1 )
バングラデシュにアルゼンチンファンが多い背景
W杯期間、バングラデシュ国内ではアルゼンチン、ブラジルの国旗を掲げている人やユニホームを着用している人が圧倒的に多く見られる。
今回は、W杯優勝国であるアルゼンチンに焦点を当て、バングラデシュにアルゼンチンファンが多い背景をみていく。それはなんと、第2次世界大戦までさかのぼる。
バングラデシュの人々がアルゼンチンを応援する背景には、イギリスへの共通の恨みがあった。アルゼンチンの日刊紙「クラリン」によると、1943年に起きたベンガル飢饉がそのきっかけとなった出来事だとされている。当時ベンガル地方(現在のバングラデシュや西ベンガル地方)はイギリスの植民地支配下であった。ベンガル地方への日本の侵略に対し、バングラデシュが日本に加担すると考えた当時のイギリス首相ウィンストン・チャーチルが物資の供給の停止や流通網の破壊を行った。その結果、深刻な飢餓問題が発生し、約300万人が死亡したとされている。この出来事がバングラデシュの人々の記憶に刻まれ、イギリスに嫌悪感を抱くきっかけになったと、アルゼンチン人の考古学者ロシオ・ゴンカルベスは説明している。
その後、1986年のW杯準々決勝でアルゼンチン対イングランドの試合が行われ、当時のアルゼンチン代表ディエゴ・マラドーナが今も伝説として語り継がれる「神の手」ゴールと5人抜きゴールを見せ勝利した。この試合の3年前にフォークランド紛争が勃発し、アルゼンチンがイギリスに敗北していたことから、アルゼンチンの人々はこの勝利に熱狂した。この勝利に同じく熱狂していたのがバングラデシュの人々であり、象徴的な出来事であった。
このようなイギリスへの恨みという共通の歴史的背景から、バングラデシュの人々はアルゼンチンを応援していたのだ。
さらに、アルゼンチン政府がこの2022年のW杯におけるバングラデシュの盛り上がりを知ったことで、2023年2月27日に45年ぶりに在バングラデシュアルゼンチン大使館が設立された。今後更にアルゼンチンとの友好が深まること期待されている。
(参考文献:COURRIER https://courrier.jp/news/archives/308317/)
(参考文献:JETRO :マスク着用等の防疫措置の緩和(7月19日以降)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/12/ada9519b4f8f48b2.html?_previewDate_=null&_previewToken_=&revision=0&viewForce=1
)
(参考文献:The Daily Star https://www.thedailystar.net/news/bangladesh/diplomacy/news/after-45-years-argentina-reopens-embassy-dhaka-3258666 )
W杯とバングラデシュ
今回のW杯とバングラデシュの関係は他にも、カタールのスタジアム建設やアパレル製作の面で大きく関わっている。
人権問題が大きく取り沙汰されているカタールのスタジアム建設には多くのバングラデシュ人出稼ぎ労働者が貢献しており、出稼ぎ労働者からの郷里送金がバングラデシュにとって貴重な外貨獲得源ともなっていた。
また、アパレル大国であるバングラデシュではW杯に関連するレプリカユニホームやその他様々なグッズ類が大量に生産されており、今回のW杯では2億ドルの輸出を目指したという。
(参考文献:JETRO https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/12/ada9519b4f8f48b2.html?_previewDate_=null&_previewToken_=&revision=0&viewForce=1 )
今後のバングラデシュのスポーツ
海外から入ってきたスポーツの人気が上昇していることから、今後クリケットやサッカーなどの人気がさらに高まっていくのではないかと考えられる。しかし、現在の国内サッカーリーグの問題でもある財政的な問題は今後も続くと考えられるため、バングラデシュ国内の財政状況が改善されない限り、今後もW杯など国際大会の一過性の盛り上がりとなってしまうのではないだろうか。