マレーシア経常黒字 激減

マレーシア

マレーシアの2025年4〜6月期、いわゆる第2四半期の経常収支黒字は2.65億リンギット(約3億円弱)にとどまり、過去20年以上では最小規模の黒字幅となりました。前期(第1四半期)の167億リンギット(約5,680億円)から98%も縮小し、業界に衝撃が走りました。いったいなぜこんなことになったのでしょうか。この記事で深掘りします。

(引用元:Malaysia’s current account surplus shrinks to 28-year low
https://themalaysianreserve.com/2025/08/15/malaysias-current-account-surplus-shrinks-to-28-year-low/

マレーシア経常黒字 激減 

   著者:マレーシアgramフェロー Malay Dragon
公開日:2025年12月19日

なぜこんなに縮小したのか

主な要因として考えられるのは、設備投資による輸入の急増と、資源部門の保守計画による輸出減です。資本財の輸入が活発化し、輸出が著しく縮小した結果、収支の構造が一変しました。

加えて、石油・ガス関連の保守作業が実施され、生産・輸出が一時的に落ち込んだことも響きました。

さらに、政府開発援助(ODA) や 国際機関への拠出金、災害時の義援金や寄付などの移転収支の赤字が4.6億リンギット(約156億円)と大幅に拡大し、黒字幅をさらに圧迫しました。ただ、これらはいずれも一時的要因と見られています。

GDP成長との関係は?

興味深いのは、こうした外部収支の変動にもかかわらず、国内経済は堅調に推移している点です。第2四半期のGDP成長率は前年同期比で4.4%増と、第1四半期と同程度の高成長を維持しています。内需、特に個人消費が力強く、景気への悪影響は現時点では限定的といえる状況です。

今年後半〜来年の予測

マレーシア中央銀行は、2025年通年の経常黒字をGDP比で1.5〜2.5%と見込んでおり、春先の凹みを補ってくれるとの見通しです。理由の一つは、データセンター関連などのサービス輸出が本格化すること。加えて、旅行収入も回復基調にあり、サービス収支の回復が期待されています。実際、7月の輸出は前年同月比で6.8%増と堅調で、資本財輸入も20.6%増と依然高水準でした。

アジア近隣との比較で見ると

シンガポールは2025年第2四半期の経常収支黒字34.8 億シンガポールドル(約4,350億円)で、前年同期の32.07 億シンガポールドル(約4,010億円)から約14.8%の増加となり、記録的な水準となりました。主な牽引役はサービス収支が好調であることで、サービスや旅行関連が堅調でした。

インドネシアは経常赤字に転落、タイは黒字を維持(約6億ドル)、フィリピンは通年で経常赤字の見通しです。

こうした比較から、マレーシアは「小振りながら黒字を維持する安定国」として相対的に見劣りはしません。多様な輸出産品(E&E、資源、サービス)のバランスが功を奏しています。

投資サイクルの“過渡”?

今回の経常黒字の縮小は、決して経済的に失速したサインではなく、投資立ち上げによる一時的な逆流という性質が強いと見られています。つまり、「輸入→生産→輸出」という段階を踏む典型的な投資サイクルが今まさに進行中であり、これから“輸出フェーズ”に移行すれば、再び経常黒字は拡大してくると予測されています。

成長への布石

今回の数字だけを見ると、マレーシアは経常黒字がほぼ消えたように見えます。しかし実態は、投資サイクルの立ち上がりで輸入が先行した一時的現象です。

隣国シンガポールがサービス収支を武器に過去最大規模の黒字を計上したように、マレーシアも現在の”設備投資の過渡期”から”輸出フェーズ”に移行していくでしょう。

マレーシアは、電気・電子やデータセンター関連など新しい成長エンジンが動き始める段階で、数四半期後には、輸出やサービス収支が黒字となると見込まれています。

つまり今回の黒字急減は、短期的な弱さではなく、中長期的な成長への布石とみるべきでしょう。

Malay Dragon

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マレーシア・シンガポール在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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