サマータイムの是非、省エネ効果には疑問も – ヨーロッパの熾烈な議論

スペイン

スペインは3月31日からサマータイムに入った。サマータイムとは主にエネルギー節約を目的に通常の標準時から一定期間だけ時計を進める制度で、冬時間の1:00amは1時間ずれて2:00amに移行する。実はヨーロッパでは毎年タイムゾーンの変更時期になると、その存続の是非と身体に与える影響、誘発される病気などに関する議論が活発化し、2018年には投票でこの制度自体の廃止が決定した。にもかかわらず、少なくとも2026年まで年2回の時間の変更は続くようだ。

Horario de verano|サマータイム

   著者:スペインgramフェロー 北田ミヤ
公開日:2024年5月20日

ヨーロッパにおけるDST(サマータイム)の歴史

エネルギー消費を最適化するために、欧州連合(EU)の加盟国や世界約75ヶ国では、3月と10月の年2回、時間変更を適用している。

DST(Daylight Saving Time:サマータイム)の起源は第一次世界大戦で、各国が戦争のためにエネルギー消費を抑える必要があった時期に始まった。1916年、ドイツが最初にDSTを導入し、夜間の国内電力消費を削減して戦争に必要なエネルギーに充てていた。

しかし第二次世界大戦後、多くのヨーロッパ諸国は戦争そのものを思い起こさせるものとなったDSTを廃止した。

その後、石油不足・エネルギーの価格高騰による不況という別の世界的危機が起こり、多くのヨーロッパ諸国でDSTが再導入された。ギリシャは1975年にDSTを復活させたヨーロッパで最初の国で、1970年代の終わりまでにヨーロッパのほとんどの国で再び年に2回時計が変わるようになった。

そして1996年、欧州連合 (EU) は DSTスケジュールを標準化した。

しかしながら現在ではその有用性や本当に省エネに貢献しているかを疑問視する人が多いため、多くの論争を引き起こすものとなっている。

(参考元:History of DST in Europe – When Did It Start?
https://www.timeanddate.com/time/europe/daylight-saving-history.html

夏時間によって起こると指摘される悪影響

数々の調査でわずか1時間の時間の移行が、私たちの身体に様々な影響を与える可能性を示している。

例えば、時間のズレが体内リズムの同期を乱す可能性があり、実際、DSTへの変更後の数日間で、心臓発作・自殺・自動車事故・および労働関連の怪我が増加傾向になる。

一般的にほとんどの人はそのような深刻な状況には陥らないものの、立ち眩みが数日間続く可能性や、寝るのが遅くなったり逆に早く起きたりと、睡眠時間が不安定になる傾向がみられる。

JAMA Neurology誌に掲載されたレポートによると、毎年のDSTへの移行は10代の若者の脳卒中、心臓発作、睡眠不足の増加に関連しており、健康に悪影響を与えることが指摘されている。

また、睡眠不足と概日リズムのずれとが組み合わさることで、不安やうつ病の症例が増加する理由として示されている。

(参考元:Why daylight saving time is unhealthy – a neurologist explains
https://theconversation.com/why-daylight-saving-time-is-unhealthy-a-neurologist-explains-175427

(参考元:¿Por qué el cambio de hora en verano no es saludable?
https://www.lavanguardia.com/vivo/psicologia/20220326/8154260/cambio-hora-verano-saludable-nbs.html

今後の時間変更の行方

2018年に欧州議会は時間変更を廃止する可能性について議論し、欧州市民による投票を行った。その結果、投票に参加した460万人の84%がDaylight Savingのシステムを辞めることに賛成、この制度の廃止が承認された。

また社会学研究センター(CIS)は2023年にスペイン市民に時間変更についての調査を実施し、スペイン人の3人に2人が制度を中止することを望んでいるという結果が得られた。これは欧州議会が2018年に実施した投票結果による民意と一致している。

最終的な決定は各加盟国の手に委ねられているため、スペインでは今のところDSTを中止した場合について検討はされているが、最終決定は行われていない。

スペインは時計を1時間戻してリスボンやロンドン(GMT)と同等に設定するか、ベルリン時間(GMT+1)を採用する選択肢があり、どのタイムゾーンを採用するかも今のところはっきりしていない。

パンデミックやその他の国際的な問題により、この時間変更の廃止の計画はいつ実行されるかわからないまま長引いている。ただし現時点では、官報(BOE)は2026年10月25日を時間変更の最後の日としている。

(参考元:¿Cuándo van a dejar de cambiar la hora en España?
https://www.antena3.com/noticias/sociedad/cuando-van-dejar-cambiar-hora_202110226178cfc8888b6900011ceb7a.html

(参考元:¿Cuándo se dejará de cambiar la hora? | Endesa
https://www.endesa.com/es/blog/blog-de-endesa/luz/eliminacion-cambio-hora

(参考元:¿Se acabó el cambio de hora? El BOE pone la fecha final en España
https://www.lavanguardia.com/cribeo/fast-news/20231027/9333813/acabo-cambio-hora-boe-pone-fecha-final-espana-mmn.html

まとめ

DSTが促進されたのは、省エネと就業時間・日照時間の調整が主な目的だった。しかし現在、動機となったこれらが未だ理にかなっているかを評価する上で論争が生じている。

『エネルギーの多様化節約研究所(IDAE)』はEuropa Pressに対し、スペインでは時間変更が省エネと関連していることを確認できる最新の調査結果は「無い」と述べ、労働時間が一昔前とは異なり、テレワークなどの新しい働き方が増加しているという現実を指摘した。

制度廃止が承認されてから6年、現在でも各加盟国の最終決断は定まらないままだ。BOEの声明通り、2026年にタイムゾーン変更を終了する日は訪れるのか、今後の行方を注視していきたい。

(参考元:Cambio de hora de verano en España: hasta qué año se prevén reajustes | Sociedad | EL PAÍS
https://elpais.com/sociedad/2024-03-30/cambio-de-hora-de-verano-en-espana-cuando-es-y-hasta-que-ano-se-preven-reajustes.html

北田ミヤ

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スペイン在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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