2025年第4四半期から 外国人労働者に対するEPF義務化

先日、マレーシアのハムザ財務大臣が、外国人労働者に対する従業員共済基金(EPF)の強制拠出は、2025年第4四半期から施行される予定であると発表しました。
産業界にどのような影響があるのか、今回の記事で解説します。

2025年第4四半期から 外国人労働者に対するEPF義務化
著者:マレーシアgramフェロー Malay Dragon
公開日:2025年7月26日
国会で法案可決

2025年3月6日に国会で、外国人労働者とその雇用主に月給の2%を退職金基金(EPF)に拠出することを義務付ける法案が可決されました。
これはマレーシアのみならず、日本の産業界にも少なからぬ影響を与えそうです。
EPFとは?
EPF (Employees Provident Fund )は、日本の年金制度に相当するマレーシアの強制的な貯蓄制度です。
従業員の退職後の生活資金を確保することを目的としていて、マレーシア人労働者の場合、従業員が月給の11%、雇用主が月給の12~13%を拠出しています。
EPFの仕組み
EPFは給与から天引きで拠出されますが、運用収益がつくのが特徴です。株式や債券、不動産などで積立金は運用されていて、過去の年平均利回りは 4~6%と、日本の年金積立金運用の利回りの3~4%より高く、比較的高収益な制度といえます。55歳から引き出し可能で、60歳で全額引き出し可能になります。
改正法案の内容
今回の法改正により、永住権を持たない外国人労働者とその雇用主にも、EPFへの拠出が義務付けられます。 拠出率は従業員と雇用主の双方が、月給の2%と設定されています。 また、外国人労働者は55歳に達する前でも、帰国時に積み立てたEPFを全額引き出すことが可能となるとされていますが、この点に関してはまだ未決定です。
ハムザ大臣は、2024年12月時点で、250万人の外国人労働者のうちEPFに積極的に拠出することを選択しているのはわずか2万2635人、0.9%であると述べています。
産業界への影響
この政策により、外国人労働者を多く雇用する業界では、人件費の増加が予想されます。 マレーシア製造業者連盟(FMM)は、約250万人の外国人労働者がいることから、EPF拠出金は年間66億リンギの人件費追加となり、最低賃金引き上げと合わせると年間174億リンギの負担増になると指摘しています。
特に、手袋※1などの製造業や建設業、テクノロジー、プランテーションなどのセクターでは、利益の約2%の減少が見込まれていて、影響が懸念されています。
※1マレーシアのゴム手袋は、世界で高いシェアを持っている。
(参考:週刊エコノミスト Online :コロナ特需に冷や水
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20201209/se1/00m/020/001000d)
(参考:ジェトロの海外ニュース :マレーシアのゴム手袋大手スーパーマックス、2025年から米国で商業生産開始
https://www.jetro.go.jp/biznews/2024/09/adac6c0bcd0203b6.html)
今後の見通し
EPFへの外国人労働者の加入義務化は、労働者の社会的保護を強化し、低技能の外国人労働者への依存を減らすことを目的としています。 しかし、産業界からはコスト増加への懸念が示されており、政府と業界間での協議が必要とされています。 EPFは現在外国人労働者向けの登録システムを開発中で、移民局などの政府機関とデータベースを統合することで、円滑な管理を図るとしています。
日本の産業界への影響
マレーシアに進出している日本企業にとっても、外国人労働者のEPF加入義務化は人件費の増加要因となります。 特に製造業などで外国人労働者を多く雇用している企業は、コスト増加への対応が求められます。 一方で、労働者の社会的保護が強化されることで、労働環境の改善や労働者の定着率向上といったポジティブな影響も期待されます。
動向注視が必要
国会では、今回の改正は経済ショックのリスクを軽減、雇用主のコスト増加の制御、構造化されるようにするためだと述べられていましたが、外国人労働者のEPF加入義務化は、マレーシアの労働市場と産業界に多方面の影響を及ぼすと考えられます。 今後、具体的な施行状況や産業界の対応を注視する必要があるでしょう。