自然災害に対する脆弱さが露呈:マレーシアの洪水について課題
2021年12月17日から3日間にわたり降り続いた雨で、マレーシアは8つの州で深刻な洪水に見舞われました。54人が死亡、一時は7万人が避難しました。
政府は「100年に1回の災害」と宣言しています。
首都クアラルンプール周辺とセランゴール州では、地域によって1日300ミリ超の記録的な降水量でした。
今回の洪水で、マレーシアの自然災害に対する脆弱さが露呈した、との声も聞かれています。
そこで今回の記事は、マレーシアの洪水について解説します。
マレーシア
著者:マレーシアgramフェロー Malay Dragon
公開日:2022年7月6日
例年の洪水
マレーシアは、例年雨季になると北東モンスーン(季節風)の影響による大雨や低温が続き、マレー半島東海岸部を中心に洪水が発生します。
マレー半島では、急激な都市化と温暖化が原因と思われる集中豪雨により、地すべり災害・水害が多発しています。
これは半島の中央部の山地に囲まれた盆地や、海岸付近の沖積平野、山地周辺の丘陵地などで大規模プランテーション(パームオイル、ゴム)により森林伐採や農地の拡大が行われており、また、 河川の下流域を中心に大規模な水田開発されていることが、土石流や土砂流出の一因とな っているためです。
2021年の洪水
今回の洪水は熱帯低気圧が原因で、2021年12月16日の夕方、マレーシア半島北東部にあるトレンガヌ州南部に上陸、半島を横断して西に進み、12月18日の早朝にクアラルンプールの北の地域で消滅しました。
マレー半島では12月17〜18日に雷雨を伴う大雨が降り続き、深刻な洪水が発生しました。
セランゴール地区の降水量は380mmで過去最高を記録し、これは過去に記録された最高降水量180mmの2倍、普段の1か月分の降水量に相当します。
被害
今回の洪水は、居住区、車両、事業所、製造業、農業部門、および公共資産とインフラストラクチャーに大きな損害を与えました。
損失は、公共資産とインフラストラクチャーが合計20億リンギ、住宅(16億リンギ)、車両(10億リンギ)、製造業(9億リンギ)、事業所(5億リンギ)、農業産業(9億600万リンギ)と報告されています。
また、セランゴール州が洪水の影響を最も受けた州であり、31億リンギットの損失を記録し、パハン州(5億9,320万リンギ)、マラッカ州(8,520万リンギ)、スンビラン州(7億7100万リンギ)ジョホール州(5億100万リンギ)でした。
(出所:マレーシア統計局資料)
日系企業にも影響
多くの日系企業が集積するセランゴール州シャアラム地区では、床上浸水、変電所の損傷による電力供給の寸断が発生し、操業停止に追い込まれました。
洪水被害が広がったセランゴール州に2工場を構えるトヨタは、12月18日に稼働を停止しました。幸い工場への浸水被害はなく22日に操業が再開されましたが、稼働率は落ちました。
パナソニックも20日、掃除機などをつくる工場が被害を受けたと発表しました。
マレーシアの洪水対策
洪水被害を未然に防ぐために、マレーシアにおいてはさまざまな取り組みが実施されています。
河川施設等の排水機能の強化、洪水予測と警戒システムの構築、マニュアルやガイドラインの策定が実施されています。
特筆すべきは、クアラルンプールのSMART Tunnelです。
このトンネルの機能は2つあります。1つは、集中豪雨時の洪水被害軽減を目的とした地下雨水トンネルとしての機能です。もう1つは、陸上の道路交通渋滞の緩和を目的とした、地下高速道路トンネルとしての機能です。3層構造になっていて、地上から順に1,2層が地下高速道トンネル、3層目が地下雨水排水トンネルになっています。
今上天皇が皇太子だった2017年にこのトンネルをご視察しました。
国交樹立60年記念のご来馬で、学生時代から「水」問題に関心をお持ちだった陛下が強く希望されてのご視察でした。
その後も浸水が頻発
今年は雨が多く、3月に1度、5月にも1度、鉄砲水や洪水がありました。
少し強い雨でも浸水する地域が以前よりも増えているようで、私の住んでいる地域も、一度1mの浸水があり、多くの車が被害に遭い、私は自宅に帰るのにかなりの大まわりをし、通常5分ほどのところを1時間以上かけて帰宅しました。
集中豪雨の度合いが激しくなっていること、都市の設備の老朽化、脆弱化が頻発する洪水の要因かと思われます。
国土強靭化
イスマイル・サブリ首相は、国内インフラの拡充について閣議決定を行い、第12次マレーシア計画(対象期間:2021 ~25年)で当初年間10億リンギとされていた洪水対策プロジェクトへの予算を、2023年から2030年にかけて150億リンギを追加で割り当てるとしています。
また、パン・ボルネオ高速道路(LPB)とMRT(大量高速輸送)の新設も決定しており、都市化が進んでも災害に強く、経済活動に支障をきたさず、国民の生命を守る対策に力を入れる予定です。
地震もなく、台風もなく、自然災害とは無縁に近いと考えられていたマレーシアですが、今回の洪水を機に国民や国の自然災害に対する考え方が変わってきていると感じています。