マレーシア、雇用パス(EP)要件引き上げの衝撃

2026年に入り、マレーシアの邦人社会で大きな話題、というより衝撃が走ったニュースがあります。それが「雇用パス(Employment Pass/EP)の最低給与の要件と有効期間の引き上げ」です。
発表から約1ヶ月。表向きは「制度の調整」ですが、実際には駐在員や現地採用邦人、また経営者にとっては将来設計に直結する問題です。
今回はこの大きな制度変更について解説します。
(引用元:Malaysia to double expat pass salary requirements from June 1
https://theedgemalaysia.com/node/789061)

マレーシア、雇用パス(EP)要件引き上げの衝撃
著者:マレーシアgramフェロー Malay Dragon
公開日:2026年03月23日
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邦人社会が直面する「静かな制度転換」

私はクアラルンプールで長く暮らしてきましたが、これほどビザ制度で議論されているのは久しぶりです。
マレーシア政府は、外国人の高度人材の選別強化と、ローカルスタッフの賃金水準の底上げを目的として、EPの要件を改定しました。
主な変更点は以下の通りです。
① 最低給与水準の引き上げ
従来よりも最低月額給与基準がいきなり倍額に引き上げられ、特に都市部・専門職ではより高い水準が求められるようになった。
② 有効期間の見直し
カテゴリーによっては更新期間が短縮、または条件付きで延長が可能となるケースが増えている。
③ 審査の厳格化
雇用の妥当性やスキルの適合性の審査がより厳格になり、形式的なビザ維持が難しくなっている。
この改定により、これまで比較的ビザが取得しやすかったポジションでも再検討が迫られています。
なぜ今、引き上げなのか
今回の制度の改定の背景には、マレーシアの経済構造の転換があると考えられています。
・低賃金労働から高度産業への移行
・地元人材の雇用の保護優先
・外資企業の質的向上
特に近年、デジタル経済やITなどのハイテク分野への投資誘致を強めているマレーシアは、「誰でも来られる国」から「選ばれる人材が来る国」へと舵を切り始めた印象を受けます。これは、シンガポールがかつて通った道でもあります。
邦人社会への影響
クアラルンプールの日本人社会では、すでにいくつかの動きが見られます。
① 現地採用者の不安増大
これまで安定していた層でも、給与基準との兼ね合いで更新に不安を抱く声が出ている。
② 企業側の再計算
日系企業の中には、コスト増を見越してポジションの整理やローカル化を進める動きがさかんになっている。
③ 起業家層への影響
小規模ビジネスを展開している法人にとっては、ビザ維持のための資本・給与設計の再構築が急務となる。
私の周囲でも、このままマレーシアに残るか、他国へ移るかを真剣に考え始めた人が多くいます。
では、どう備えるか
ここで重要になってくるのは、感情ではなく設計の見直しでしょう。
① 収入構造の可視化
月額給与をビザ取得・維持に必要となる金額に形式的に合わせるのではなく、継続可能なビジネスモデルを組み直す必要がある
② スキル証明の強化
専門資格、実績、職務内容を明確にし、審査に耐えうる資料の準備が必要
③ 複数オプションの検討
EP以外のビザ(例:デジタルノマド系制度など)なども考える必要がある
「住める国」から「選ばれる国」へ
マレーシアはこれまで、比較的門戸の広い国でした。
生活費の安さ、多文化社会、日本人にとっての安心感、どれをとっても他のアジア諸国と比べて優位に立っていました。
しかし今回の改定は、明確なメッセージを含んでいると感じます。「滞在は歓迎する。ただし、価値を明確に示してほしい」という強いメッセージです。
でもそれは決して冷たい言葉ではないと思います。むしろ、国として成熟段階に入った証拠とも言えるでしょう。
30年アジアで暮らしてきた私から見ると、制度は必ず揺れます。シンガポールもマレーシアも、常に調整を続けてきました。大事なのは、制度に振り回されるのではなく自分の軸を持ち続けることだと、あらためて強く実感しています。
今回のEP改定は、邦人社会にとってはもちろん試練ですが、働き方と価値を再定義する絶好の機会でもあると感じています。


















