アジアNo.1の医療大国が目指す「最高級医療ツーリズム」の行方|シンガポール
コロナ禍からの回復が進むシンガポールの医療ツーリズム。1泊170万円の高級個室に専属シェフを連れてくる富裕層もいるなど、高級医療ツーリズムが人気だ。世界有数の医療先進国であり、アジアNo.1の医療ツーリズム大国として評価が高い。近年はマレーシア・タイなどとの競争が激化する中、革新的なサービスで高付加価値化を図る。中国・インド富裕層をターゲットに、高級医療ツーリズムで更なる成長を目指す。
今回は、シンガポールの「メディカル・ツーリズム」について紹介します。
アジアNo.1の医療大国が目指す「最高級医療ツーリズム」の行方|シンガポール
著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon
公開日:2024年 5月14日
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メディカル(医療)ツーリズム先進国
シンガポールはメディカルツーリズム指数において、2020~2021年はカナダに次いで2位にランクされています。
メディカルツーリズム指数とは、医療施設の質、医療安全、総合的な好感度などを考慮して、国の魅力、安全性、ケアの質を指標で評価したものです。
ASEANの他の諸国では、タイが6位に、7位にフィリピンがランクインしています。
50万人以上の海外からの患者
シンガポールには50万人以上の患者が海外から来ており、特にがん治療や複雑な整形外科手術、心臓手術などの分野での評価は世界的にも高いです。
コロナ禍以降は激減し、2020年と2021年はコロナ禍以前と比べて実に80%減でしたが、2023年にはほぼ以前の規模まで戻っています。
医療ツーリズム産業
世界の医療ツーリズムの市場は、2018年には167億6,100万ドル(約2.5兆円)の規模があり、2024年には272億4,760万ドル(約4.1兆円)に達すると予想されています。
その中でもアジア太平洋地域は、世界市場のなんと約40%という最大のシェアを占めています。
アジアの近隣諸国と同様、シンガポールは患者の本国では受けられない、非常に高価な治療を求める医療目当ての訪問者の目的地として、長年にわたり繁栄してきました。
2023年の医療観光支出は、シンガポールの観光収入の約4%未満でした。
シンガポールの優位性
シンガポールの医療ツーリズムがこれまで比較優位性を維持してきた理由はいくつか考えられますが、重要なのは「観光」が国の主要産業のひとつであり、医療ツーリズムに対して国も注力して推進しているビジネスであることです。
「医療は産業」と、シンガポール政府は方針をはっきりと打ち出しており、国外から広く入院患者を誘致することに力を入れています。
医療レベルが極めて高い
シンガポールはアジアのみならず世界でも有数の医療先進国で、質の高い医療サービスをうけることができます。
多民族国家で多くの移民や高度の人材を抱えているため、言語や慣習面で外国人に対する柔軟性が極めて高く、富裕層が要望している医療ニーズに合っています。
また、シンガポールはアジアでも日本と同等に医療制度の充実した国としての評価が高いことも多くの富裕層を引き付けています。
周辺国との競争が激化
近年、マレーシアやタイなども医療ツーリズムに力を入れていて、競争の激化が進んでいます。
シンガポールは生活費の高騰化が急激に進んでいて、この記事でも数回取り上げましたが、世界で最も物価の高い都市にランクされています。
そのため、極めて高度な医療が比較的安価に受けられるという利点を失いつつあり、コスト競争力が急速に悪化しています。
革新的な進歩
しかしシンガポールは治療以外の目的での医療ツーリズムを行うという、革新的な方法を開発しています。
たとえば、タブレットを使用して医療記録を閲覧するだけではなく、食事を注文したり、オンラインで買い物をしたりできるといった周辺サービスに力を入れています。
さらに、シンガポールの病院の多くは海外の新興国に新しい病院を開設し、拡大を続けています。
シンガポールは今後も高度な治療の人気の目的地であり、中国やインドなどの新たな市場からコストをあまり求めない患者を引き寄せることでしょう。