ロボタクシーが走り出すシンガポールの街角

シンガポール

シンガポールに出張で出かけると、時折『未来が一歩こちらに近づいた』と感じる瞬間があります。最近のニュースで驚かされたのは、セントーサ島で始まった無人ロボバスの運行です。

EVの割合が増えてきて、完全自動運転の未来が現実味を増してきたシンガポールの現状について紹介します。

(引用元:WeRide Launches Southeast Asia’s First Fully Driverless
https://www.globenewswire.com/news-release/2025/07/17/3117054/0/en/WeRide-Launches-Southeast-Asia-s-First-Fully-Driverless-Robobus-Operations-at-Resorts-World-Sentosa-Singapore.html?utm_source=chatgpt.com

ロボタクシーが走り出すシンガポールの街角  

   著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon 
公開日:2025年 11月07日

セントーサに現れた「無人バス」

中国系スタートアップのWeRideが導入したもので、12分ほどのループ路線を走り、ホテルや商業施設を結んでいます。しかも今回は安全要員すら同乗しない「完全無人運行」。センサーとAI制御によって周囲を常時モニタリングし、200メートル先の障害物まで検知できるといいます。

これまで自動運転といえば”いつかは来る技術”というイメージでしたが、観光客が行き交うリゾートで現実に走り始めたのです。私自身、何度もセントーサを訪れてきましたが、その馴染みある風景に無人バスが加わったのを想像すると、未来が急に身近に感じられます。

プンゴルでの次なる実験

もうひとつ注目すべきは、政府が年末にも始める予定のプンゴル地区での実証です。

プンゴルは郊外の新興住宅地で、整った道路とMRTやバス網が交差するエリア。ここでロボタクシーや自動運転シャトルを走らせ、駅や商業施設への“ラストマイル”を担わせる計画です。まずは安全要員付き、乗客なしと段階を踏み、将来的には完全無人化を目指すといいます。

この段階的導入は、シンガポールらしい手堅さを感じます。過去に自動運転の試験走行を見学したことがありますが、歩行者や自転車が入り乱れるアジアの都市での実装は簡単ではありません。だからこそ、まずは限定されたルートで成功体験を積み上げ、徐々に範囲を広げる戦略なのです。

海外勢と地元企業のタッグ

もう1社、注目されるのがPony.aiです。公共交通大手のComfortDelGroと提携し、ロボタクシーのトライアルを準備中です。中国の先端技術とシンガポールの公共交通インフラが組み合わさることで、実装スピードの加速が期待できます。街中のタクシーが自動運転車に置き換わる日がいつ来るのか、現実味を帯びてきました。

実用化に近づく理由

ではなぜ、シンガポールで自動運転が実用段階に入りつつあるのでしょうか。大きく3つの理由があります。第1に、規制環境。運輸当局LTAが認可プロセスを整備し、安全要員なしでの運行を許可したのは画期的です。第2に、都市インフラ。道路が整備され、交通ルールも徹底されているため、予測可能性が高いという利点があります。第3に、明確な導入ステップ。限定ルート→安全要員付き→完全無人、と計画的に進めているため、社会の受容性も高まります。

1、規制環境運輸当局の認可プロセスを整備、安全要員なしの運行許可
2、都市インフラ道路整備とルールの徹底による予測可能性向上
3、明確な導入ステップ「限定ルート→安全要員付き→完全無人」による社会の受容性

まだ残る課題

もちろん課題は残ります。突発的な歩行者の飛び出しやスコール時の視界不良など、センサーやAIだけで完全に対処できるのかは未知数です。また、事故時の責任は誰が負うのか、保険制度はどうなるのかといった法的課題もあります。加えて、コスト面での課題も無視できません。現状の車両は高額で、運行をスケールさせるには費用を大幅に下げる必要があります。

私が感じる未来像

アジアに暮らして30年、うち12年をシンガポールで過ごしてきました。

正直なところ、渋滞の少ないシンガポールでロボタクシーがどこまで普及するのかと懐疑的に思っていた時期もあります。しかし、セントーサで無人バスが観光客を乗せて走り出した姿を見て、印象が変わりました。小さな一歩に見えて、確かに未来の片鱗です。

おそらく2027年頃には、限定地域から一歩進んだサービスが始まるでしょう。そしてシンガポールは、東南アジアのショーケースとして周辺国に技術や制度を輸出していくに違いありません。いつもシンガポールの変化の早さには驚かされます。

Malay Dragon

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マレーシア・シンガポール在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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