イスラム教の国マレーシアのトイレと日本の温水洗浄便座の親和性

マレーシア

マレーシアでトイレに入ると、床が水浸しになっていることが多々ある。これは人口の約70%を占めるイスラム教徒(ムスリム)の慣習に基づいている。しかし、ここ数年でトイレ事情が変わりつつある。その鍵を握るのが日本では普及率80%以上といわれる温水洗浄便座かもしれない。

イスラム教の国マレーシアのトイレと日本の温水洗浄便座の親和性   

   著者:マレーシアgramフェロー 逗子マリナ
公開日:2023年2月23日

マレーシアでトイレの床がびしょびしょに濡れている理由

中級以上のホテルでもトイレにハンドシャワーは必須

マレーシアを初めて訪れた際に、かなりの割合でトイレの個室の床がびしょびしょに濡れていることに驚く人が多いのではないだろうか。首都クアラルンプールの商業施設や現代的な公共施設など、衛生的な水洗トイレが標準装備されている場所ですらこのような状態となっていることが多い。

実はこれはイスラム教の慣習に関係している。イスラム教を国教とするマレーシア(※1)では、人口の70%がムスリム(イスラム教徒)である。公共、公衆の場ではイスラム教の考え(※2)が基本となっているからだ。

イスラムの教えではトイレで用を足した後は水で洗浄

壁に設置されているハンドシャワー

トイレで用を足したあと、ムスリムは右手でハンドシャワーを持ち、左手で洗浄をする習慣がある(※3)。そのためマレーシアの一般的な水洗式のトイレには必ずといってもいいほどハンドシャワーがついている。西洋式のビデと似ているが用途としては異なる。ハンドシャワーはマレーシアでは壁や便座の脇などに設置されていることが多い。使用後は床も洗い流す(清める)こともあるため、必然的に床が濡れたままの状況となるが、それは「清めました」という証でもある。

ハンドシャワーではなくホースを使うタイプのトイレ

また、古い商店街や住宅、田舎では、ハンドシャワーもなく日本の和式トイレに似た便器のわきに水の張ったバケツと手桶のみいうこともある。

だが、先進国入りの目標を掲げるマレーシアにとって、イスラム教の教えを遵守しつつ近代化へ進むことを考えると、このようなトイレ事情はあまり歓迎できるものではないのも事実だ。

マレーシアの都市部で起きているトイレの変革

クアラルンプール市内の5つ星ホテルのトイレ

ここ5年ほどで、マレーシアのトイレが変化してきている。新しくオープンした商業施設、オフィスビル、高級コンドミニアム、中間層以上向けの飲食店、高級ホテルなどではハンドシャワーが姿を消し、日本の温水洗浄便座、あるいはそれに準ずるトイレを見かけることが増えてきた。

イスラム教の慣習そのままに、トイレの床の衛生も保てるという条件をクリアするだけではなく、設置されている施設自体のネームバリューが強化されている。そして温水洗浄便座の高級品としてのブランディングにもつながっている。

日系商業施設「ららぽーとKL」のトイレには日本式の温水洗浄便座

2022年1月、クアラルンプール中心部の再開発エリアにオープンした日系の商業施設「ららぽ〜と」のトイレにも日本のメーカーの温水洗浄便座が採用されている。

最後に

東南アジア圏の大手ECサイト「ラザダ(Lazada)」、「ショッピー(Shopee)」で日本のメーカーの温水洗浄便座で販売価格を調べると、エントリーモデルで1400リンギット〜(約4万2000円〜)ほど。マレーシアの1ヶ月の最低賃金(※4)が1500リンギット(約4万5000円)で、ほぼ同額となる。そのため庶民にとっては手の届かない高級品となっているのが現状だ。

価格がネックとなりマレーシアにおける市場の拡大は難しいと思われているが、実は富裕層が人口の2割を占め、世界銀行の分類ではアジアの中ではシンガポール、ブルネイ王国についで経済発展が進んでいる(※5)。都市インフラの整備や再開発などが進み経済成長が期待されるマレーシア。それに伴い将来的に温水洗浄便座の需要が伸びていく可能性も高いのではないだろうか。

【補足】

温水洗浄便座で日本国内シェアトップ(※6)のTOTO(東洋陶器)は1997年からマレーシアのセランゴール州セラワン工業団地で工場を稼働し「ウォシュレット」を製造している。アジア・オセアニア地域の統計となるが、2015年を100とすると2021年は150%の販売伸長を記録(※7)している。

また同2位のリクシル(LIXIL)の「シャワートイレ」も2020年4〜5月に北米で60%増(※8)を記録した。(了)

※1…外務省マレーシア基礎データ 
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/malaysia/data.html

※2…注釈:
外国人や異教徒に対して課せられるものではないが、尊重するという姿勢が望まれる。

※3…世界のトイレ文化から見えてくるトイレ空間の実情(TOTO):
https://jp.toto.com/products/machinaka/world/

※4…2022年SMEbankの統計:
https://smebank.com.my/images/2022/Magazine_New_minimum_wage_to_address_middle-income_trap.pdf

※5…アジア新興国で急増する「中間層・富裕層」 | 国別の割合と消費市場を分析(Digima〜出島〜):
https://www.digima-japan.com/knowhow/world/4816.php#:~:text=%E5%AF%8C%E8%A3%95%E5%B1%A4%E3%81%8C%E4%BA%BA%E5%8F%A3%E3%81%AE,%E3%81%84%E3%82%8B%E5%9B%BD%E3%81%AE%E3%81%B2%E3%81%A8%E3%81%A4%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82

※6…日本製「温水洗浄便座」がすごい!世界が驚く3大メーカーの機能(DIAMOND ONLINE):
https://diamond.jp/articles/-/229239?page=3

※7…TOTOウォシュレットの「各地域の販売状況」グラフより抜粋:
https://jp.toto.com/company/press/2022_10_28_01/

※8…コロナで意外な展開「日本のハイテク便座」がアメリカで爆売れしている(DIAMOND ONLINE):
https://president.jp/articles/-/37758?page=1

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