深圳日本人男児殺害事件 警戒体制続く在中日本人
9月18日、中国のシリコンバレーと呼ばれる深圳市で、日本人小学校に通う10歳の男子児童が中国人の男によって殺害される事件が発生した。当事件が起こる前から日本人を狙った犯行は起きており、偶発的な事件として考えるのは苦しい言い訳のように聞こえる。本記事では、日本と現地の報道を元に事件の経緯や歴史的背景、中国人の反応、駐在員と帯同家族の状況について解説する。
深圳日本人男児殺害事件 警戒体制続く在中日本人
著者:上海gramフェロー 米久 熊代
公開日:2024年11月18日
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防ぐことはできなかったのか。繰り返された悲劇
事件が起こった9月18日は満州事変(柳条湖事件)の日と重なった。日本軍を中国の領土に侵入させてしまった「国恥日」として、中国人ならば忘れてはならない日と言われている。毎年9月18日は警報が街に鳴り響く。日中の根深い歴史のひとつで、領事館からも特に注意する日として周知されるほど中国全体で敏感な日となっている。
そんな日に事件は起こった。男子児童は母親と共に学校へ登校中、学校から200m手前で容疑者である中国人の男(44)に刃物で襲われた。腹部や太腿を何度も刺され腸が出ていたという報道もある。容疑者は無職の単独犯で、犯行後現場に駆けつけた警察によって現行犯逮捕された。
被害者の男子児童は学校付近の病院へ搬送されたが、懸命の治療虚しく9月19日に死亡が確認された。男子児童の両親は日本人と中国人と報道されており、両国にとって尊い命が奪われた。
今回の事件発生前から、中国では日本人が襲われている。
今年4月3日、蘇州市内の料理店が立ち並ぶエリアで日本人駐在員の男性が中国人に切りつけられ首に軽傷を負った。
6月24日、同じく蘇州市で日本人学校のスクールバスが襲われた。日本人の親子が刃物を持った中国人の男に刺され怪我を負い、日本人の親子を守ろうとした中国人女性が犯人に刺され亡くなった。
6月10日、吉林省ではアメリカ人の米大学講師4人が次々に刺され怪我をする事件も発生しており、今年に入り日本人を含めた外国人が襲われる事件が多発。中国全体で不穏な空気が流れ、事件が何度も起きていたところでこの度の悲劇が起こってしまった。
過激な愛国主義の中で起きた殺害事件
蘇州で発生した日本人親子が負傷した事件と、深圳で起こった日本人男児殺害事件に対し中国政府は「単独犯の偶発的な事件」と発言している。
3ヶ月間で日本人が襲われた事件が2件も発生したことや、9月18日という日中にとって歴史的な出来事が起こった日と深圳殺害事件の日が重なったことに対し、これは偶然なのか、犯行の動機は何なのか、憎悪犯罪なのかについては「現在も調査中」とし、これからも日本人を含め外国人の中国訪問を歓迎すると発言した。
また、深圳の事件後、海外の記者が中国政府に対し「蘇州の日本人親子刺傷事件の詳細はいつ日本大使館に提出する予定なのか」という質問に対し「すでに中国の立場を示しており、付け加えることはない」と発言している。
恐らく深圳の事件においても中国政府からは納得のいく詳細が提供されることはないだろう。
深圳の事件から数日後、現地の友人に今回の事件について聞いてみたが、殆どの人が知らなかった。中国のSNSでは死亡した日本人男児を追悼する声がある一方、日本側の自作自演という酷すぎるデマや犯人を賞賛する異常な声もある。政府にとって不利益な情報は次々に削除されている。数年前から中国にある日本人学校はスパイを養成しているという内容の動画などが拡散されていた。
筆者が同じマンションに住む近隣住民に「你好」と挨拶をした際、まだ小学1年生ぐらいの女の子から返ってきた言葉が「小日本」だった。小日本とは、日本や日本人に対する蔑称として用いられる言葉で差別用語のひとつだ。
中国に住んでいる日本人が「小日本」と言われることは珍しくなく、筆者自身も何度か言われたことがある。しかし、それはタクシーの運転手やデリバリーの配達員など大人からで子どもから面と向かって言われたことは今までなかった。深圳の事件後、近隣に住んでいて何度か顔を合わせたことがある女の子に「小日本」と言われたことは衝撃であり、反日教育の根深さを垣間見た気がした。
来年の夏、中国で731部隊の映画が公開される予定で、すでにプロモーションも始まっている。731部隊(関東軍防疫給水部)とは、第二次世界大戦期の大日本帝国陸軍に存在した研究機関。中国東北部のハルビン郊外にある研究施設にて細菌兵器の製造や使用、人体実験を行っていた。この細菌兵器で多くの中国人の命が奪われた。
このような映画の公開が控えていることも、反日感情が高まりつつある原因のひとつである。
緊迫する中国駐在員と帯同家族が今思うこと
深圳で起こった事件は、中国に駐在する日本人の間で非常に大きな衝撃が走った。反日教育など日中関係が悪化する中でも、子どもに対して非常に優しく情の熱い中国人がいることを、多くの在中日本人は感じていただろう。また、事件現場が田舎ではなく、中国では都市部に位置する最先端技術が終結するハイテク都市として有名な蘇州市で悲劇が起こったことは、中国のどこにいても危険がつきまとうのだと痛感した。
Panasonicなど大手日系企業では、希望者は一時帰国を許可するという動きが出ている。筆者含め、子どもがいる周りの駐在員家族には本社から何かしらの連絡があった人もいれば、まったく連絡なしという会社もあるのが現状だ。
筆者の周りでは出来ることなら今すぐ日本に帰国したいという声も多いが、実際はさまざまな問題が絡みすぐ帰国することは難しい家庭もある。日中夫婦で生活や仕事の拠点が中国であるケースや、駐在員でも仕事の内容や役割、本社の方針、子どもの学校、帰国後の住居、帰国する期間の問題など、中国に住んでいるからこそ直面する課題に頭を抱えている。
事件後、上海市の日本人学校でも迅速に警備が強化され緊張感が漂っている。日本人の友人の子どもが通う小学校では、秋に予定していた遠足や課外授業はすべて無くなり、当面の間実施する予定は一切ないという。
外では日本人だと認識されないよう言動や身に付ける物には気を配り、極力外出を控えるようにしている。子どものスクールバスの送り迎えは日本人同士で連絡を自発的に取り合い、なるべく複数人で行動するように警戒している人も多く、自分の身は自分で守るべく神経をすり減らしている。
両国で事実と異なる行き過ぎた発言がSNSで広がる
亡くなった男児が生前通っていた日本人学校には多くの中国人が献花や追悼をしに訪れている。在中国日本大使館の投稿に対するコメントには「いかなる国においても無実の民間人に対する攻撃は受け入れられない。真実を明らかにし犯人を厳しく処罰したい」「悲劇が二度と起こらないよう真相を究明すべき」などの声があがっている。
一方で、中国ではさまざまな悪質で反日的なデマ情報が出まわっている。中国政府にとって不都合な内容やシェア投稿は消されるなど情報操作が行われ、中国の主要メディアは沈黙しており当局からの圧力が伺える。
23日、外務副大臣が中国側と会談し、事件解明のほか、悲劇が二度と起こらないよう根拠のない悪質で反日的なSNS上の投稿の取締りを徹底するよう求めた。これに対し中国側は「中国には、いわゆる日本を恨むような教育はない。われわれは歴史を教訓にすることを主張している。それは恨み続けるためではなく、戦争の悲劇が繰り返されないようにするためだ」と述べたうえで、日本と戦略的互恵関係を推進し、建設的で安定した関係を築きたいと強調した。
(引用元:NHK https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240923/k10014589741000.html)
また、日本でも根拠のない行き過ぎた内容の投稿が目立っている。中国の文化や常識などを全く知らない人、現在中国に居るわけではないため状況が分からないにもかかわらず、あたかも知っているかのように断言、偏見や思い込みで発言する投稿がある。そういった過激な内容のものほど日本人からの反応が良いため拡散されてたり、面白おかしくコメントをしたりと、やっていることは某国と変わらない。
こうした状況を見て現地の日本人は二次被害が起きないか危惧する声も上がり、懸念事項となっている。