和食は別腹!インフレ下で拡大し続けるフランスの日本食材市場
フランスでも新型コロナウイルスによるパンデミックが明け、人々は以前のように外出や海外旅行を楽しむようになってきましたが、ロックダウン中に起こった巣ごもりブーム、特に自炊に力を入れる「お家ごはん」は依然として人気です。
加えて2022年から始まったインフレーションによる全体的な物価の上昇が世帯レベルに及ぼす影響も徐々に顕著になってきております。ウクライナ危機に端を発した総合的なインフレの下、多くのフランス国民の購買力は低下していますが、テレビ・ラジオを始めとしたメディアで特集が組まれる等、日本食品への関心は依然として高く、今後も成長が期待出来そうです(2021年の日本の食材市場の成長率は29%)。※1
今回は食品の中では比較的高額で販売されている日本の食材が、なぜインフレの影響を最小限に止めつつ成長中なのか、フランス人が和食に持つイメージ、今後求められてくる要素等を交えて、日本食市場の現状をお伝えしたいと思います。
(引用元:※1 Foodtech : Waysia lève 10 millions pour démocratiser la cuisine asiatique.
https://business.lesechos.fr/entrepreneurs/financer-sa-creation/0702304484256-foodtech-waysia-leve-10-millions-pour-democratiser-la-cuisine-asiatique-349311.php))
和食は別腹!インフレ下で拡大し続けるフランスの日本食材市場
著者:gramフェロー EllieS.
公開日:2023年12月6日
「節約」の対象となった外食産業、消費の場はレストランから家庭へ
2023年5月上半期の報告によると、外食産業は+13%の経済成長をしたとの統計結果が出ていますが、インフレによる価格上昇の利益分も含めた市場分析によると緩やかに後退しているとの見方がされています。
特にテイクアウトや大型スーパーのお惣菜コーナーの中食等は7%の後退、日本食も例外ではありません。ピザやハンバーガー等の洋食系と比べて高価である日本食に対する買い控えは今後も続く可能性があります(ピザ・ハンバーガーが平均して一食当たり10〜15€に対し、日本食は19〜21€)。※2
一方で、日本食に限って言えば今までの顧客が完全に和食から離れたというわけではないようです。
筆者もここ一年で、自宅で作る日本の家庭料理に使う調味料や野菜が地元のスーパーに並ぶことが多くなってきたと感じていたのですが、クオリティーの高い和食レストランがあるパリのような都市部でも外食やテイクアウト回数を減らし、代わりにお寿司のDIYキット(20€ほど)を購入して自分たちでお寿司を作って食べるという世帯が増えてきているようです。※3
2000年代からパリで日本食が流行しだした要因として、“Ma cantine(フランス語で私の食堂の意)”と親しみを持ってパリジャンに呼ばれる等、他のジャンルの料理と比べてサービス面でも価格面でもカジュアルであること、一品の中に使われている食品目の多いバランスの取れた食事であること、来店客の目の前で調理が行われるカウンター席の持つエンターテイメント性があげられます。これらの要素が上手く混ざり合って現地の若い世代から高い評価を受けたということがあるかと思います。
そうした和食の顧客層が現在は親世代になり、家族全員で日本食を楽しむようになっていたところに物価の高騰が起こり、日本料理を食べる場所がレストランから自宅に移ったことが食材そのものの需要が増えた要因ではないかと思われます。
(引用元:※2 La restauration résiste encore mais les consommateurs sont plus en plus attentifs à leur dépenses.
https://www.neorestauration.com/article/la-restauration-resiste-encore-mais-les-consommateurs-sont-de-plus-en-plus-attentifs-a-leurs-depenses,70351)
(引用元:※3 Inflation : devenus trop chers, les sushis séduisent de moins en moins.
https://www.europe1.fr/economie/inflation-devenus-trop-chers-les-sushis-seduisent-de-moins-en-moins-4177153)
EU独自の流通経路と規制・法案が商品に及ぼす影響は大きい
幅広い層のフランス人から支持されている日本食ですが、今後も市場成長を続けていく中で全く障害がないという訳ではありません。
2021年4月から欧州に入ってくる動物性食品(原材料の一部に使用されている商品も含む)に係る規制の変更がなされ、日本を含む対EU輸出を許可された国で生産された物でも動物性原材料をEU・HACCPの認可を受けた施設で加工されたものに変更しなくてはならない等、対EU輸出に適応するために原材料の一部を置き換える等の生産プロセスの微調整が必要になってきます。
また、2050年まではカーボンニュートラル実現に向けた法改正も段階的に実施される予定です。現時点では日本くらい地理的に遠く離れた国から輸入されるものに対して改正案がどの程度影響を及ぼしてくるのかはっきり分かっていませんが、その都度法案に対応出来る柔軟性を求められる可能性があることは念頭に置いておいたほうが良いでしょう。
フランス国内の流通網に乗せる場合も、食材の主な買い手であるレストランやスーパーは海外の食品を扱う専門インポーターを介して商品を入荷する場合が多いので、仲介業者を挟むことによって発生するコストが商品の店頭販売価格に及ぼす影響も大きいといえます。※4
(引用元:※4 フランスにおける日本食品市場 https://www.jetro.go.jp/agriportal/online/2022/13dead52a368ed51.html)
日本食に対するイメージと近年の消費者ニーズを上手く重ね合わせて成功する例も
近年は欧州で日本食材を生産している企業も増えてきて、日本からの輸入品に加えてEU産の商品も徐々に増えてきています。「野菜を多く使う健康的でバランスの取れた食事」「旬を楽しむ食事」「農地への負担が少ない食事スタイル」というような、フランス人が日本食に抱くポジティブなイメージからフランス国内で生産されている商品はオーガニックラベルを取得しているものが多いです。
日本でもオーガニック商品の人気は強いと思うのですが、フランスでは特にオーガニック食品であることに加えてビーガンフレンドリー、あるいはリサイクルしやすい瓶詰めの商品や量り売りの出来る商品を小売店が優先して選ぶなど、日本食であることに加えて食生活の多様性や環境面にも配慮した商品を取り扱うことで、高価格帯でありながら一定の消費者からの支持を得ることに成功している事例もあります。※5
このお店では日本からの輸入商品に加えて、お米やお茶、醤油、みりん等の調味料も量り売りで購入出来ます。高価格になってしまうのですが、Petit Tokyoとして日本好きのパリジャンに親しまれてきたオペラ界隈ではなく、健康や環境問題に敏感で購買力が比較的高い傾向にあるファミリー層が多く住む19区に出店したこともあり、多数の現地メディアに取り上げられるなど注目を集めており、売れ行きも順調のようです。
(引用元:※5 パリ北東部の日本食材店、量り売りが好評 https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/06/613694553446d733.html)
まとめ
近年でも例を見ないインフレが深刻化しているフランスですが、その裏で新たなニーズが高まりつつあるのも事実です。全体的な物価の高騰に合わせて毎日の生活にかかる出費を見直す家庭が増える中で、自炊の増加、特にフランス国内で生産される食品を使って外国料理を自宅で作る動きはパリに限らずフランス全土に広がりつつあります。環境面への配慮や食生活の多様化のニーズに対応出来る商品開発が課題となりますが、それだけ多くのフランス人の関心を集めているということではないでしょうか。今後も十分成長が期待される市場だと思います。