ロシアから続々と出国するIT技術者達の事情を確かめてみた

ビジネスニュース

2022年9月29日にロイターによる「ロシアIT技術者の大量出国止まらず、政府は動員除外指針」という記事が出た。
調べてみると、ロシアのIT技術者の国外脱出は3月から始まっており、その事情も込み入っていてかなり複雑だ。日本にいる我々が理解しやすいように動きを確かめてみた。

ロシアIT技術者の大量出国止まらず、政府は動員除外指針:
https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-russia-tech-idJPKBN2QU0AO

ロシアから続々と出国するIT技術者達の事情を確かめてみた

著者:gram fellow デビッド・イマ
公開日:2022年10月3日

チャーター機で200〜300名を一挙に出国

2022年4月13日付のニューヨークタイムズ記事 
「Russian Tech Industry Faces ‘Brain Drain’ as Workers Flee(https://www.nytimes.com/2022/04/13/technology/russia-tech-workers.html)」
によると、ロシアによる2月のウクライナ侵攻以来、5〜7万のIT技術者がロシアから出国し、その多くは旧ソ連のアルメニアに飛んでいるのだと言う。ロシア国籍の人はアルメニアに特別なビザがなくても渡航できる。アルメニアはロシア人に対して友好的な人口300万の国だ。首都エレバンに空港があり、ロシアのIT技術者の多くがここに降り立った。
その他、ロシア人がビザなしで渡航できるジョージア、トルコ、アラブ首長国連邦などが行き先になっている。また、一部は就業ビザなどの資格を満たして米国など西側諸国に出国している。ちなみに米国は理数系の修士ないし博士号の学位を持っており、ロシア以外で就労経験があるロシア人に対しては門戸を開けている(https://slate.com/technology/2022/06/russian-tech-workers-fleeing.html)。

ロシアの技術者にアルメニアで安心して働いてもらう

ロシアにいるIT技術者をアルメニアの首都エレバンに運ぶために、航空機をチャーターして200人、300人単位で運んでいる人もいる。ロシアでIT技術者を雇っているスタートアップ企業やロシアにある企業に投資をしているベンチャーキャピタルの経営者だ。こうしたスタートアップの経営者は欧州や米国に居住して資金を集めながら、従業員はロシアにいて開発に勤しむ。それも結局、シリコンバレーなど欧米のITハブで勤務する開発者の給与は高く、ロシアの開発者の場合は安いという現実的な事情があるからだ。

ソ連の時代からロシアは科学技術の振興に熱心で、理数系の教育にも力を入れている。その中から極めて優秀なプログラマーが出てくる。ロシアではそうした優れたIT技術者を賃金水準を反映して欧米ITハブよりもはるかに安く雇うことができる。そうした開発者集団を航空機をチャーターして安全に働ける国へ移す訳だ。例えば、StudyFree(https://studyfree.com/)
という大学生向けに奨学金に応募するためのサービスを提供している会社は30名の技術者集団をモスクワから第三国へ出国させた。

賃金水準が安いため、西側諸国でビジネスを行っていながら、開発はロシアやロシア以外の東欧で行っているIT大手がいくつかある。こうした会社は複数国に拠点があり、社内でいわばオフショア開発を行って、開発費総額を低く抑える。米国で受注して東欧で開発すれば利益を増やせる。

航空機をチャーターした経営者達もほぼ同じモデルで開発していた。ロシア国内が不安定になるとビジネスの継続性が保てないから止むを得ず出国させたということだろう。

アルメニアのエレバンではロシアのIT技術者がにわかに大挙してやってきて、対応が追いつかない所があるようだ。住居が確保できず当面はホテルに技術者達を泊まらせて、昼はカフェなどで仕事をさせるケースもあるようだ。

国外で安堵する人とロシアに戻っていく人と

2022年5月1日付ワシントンポストの記事
「Mass flight of tech workers turns Russian IT into another casualty of war(https://www.washingtonpost.com/world/2022/05/01/russia-tech-exodus-ukraine-war/)」
によると、ロンドンにはロシア企業が国外に拠点を移す際の支援サービスを提供しているRelocode(https://relocode.eu/)
という会社がある。同記事によるとウクライナ侵攻が始まって以来、ロシア企業の問い合わせ件数は20倍に増え、多い場合は従業員1,000人単位で西側に引っ越すのだという。

この記事では冒頭でIT企業の経営者が家族ぐるみでラトビアの首都リガに移り住み、経営者が安堵している様を報じている。3歳の息子がおり、ロシアの政治状況の下では教育ができないとコメントしているそうだ。

2022年7月20日付のRest of Worldの記事
「Fleeing Putin, Russian tech workers find a home in Armenia(https://restofworld.org/2022/russian-tech-workers-armenia/)」
はアルメニアに腰を落ち着けた10名のロシア人IT技術者のケースを実名入りで紹介している。皆、おおむねアルメニアの友好的な状況に満足している。ロシアにいて投獄や徴兵のリスクに怯えながら仕事をしているよりは、まったく良いということだろう。

いったん西側諸国に避難したものの、ロシアに戻るケースも出ている。

Slateの2022年6月1日付記事
「An Estimated 10 Percent of Russian IT Workers May Leave Russia. What About the Other 90 Percent?(https://slate.com/technology/2022/06/russian-tech-workers-fleeing.html)」
は37歳のウラディミールという男性の事例を紹介している。彼は妻と子供を連れて西側諸国に移り住んだ。しかし新しい雇用主からの給与と手当だけでは生活できないことがわかったため、ロシアに戻ったのだと言う。彼にはモスクワ市内に家があり、また郊外にはセカンドハウスがある。これらのローン支払いが残っているためだ。出国する人にも帰国する人にも色々な事情がある。

この記事ではロシアに戻る人が少なくない現実を報じている。帰国する理由には、現地でロシア人が歓迎されないからというものもあるそうだ。ロシア国内にいるうちは、ウクライナ侵攻でロシア軍が行ってきたひどい行動がほとんど報じられていないから、ロシアが多くの国から嫌われていることがわからない。そうして移住してみたところ、ロシア人というだけで白い目で見られる。単身ならまだしも家族としてはそうした社会で暮らして行けない。止むを得ずロシアに戻る。そういう流れがあるようだ。

プーチンが始めた戦争が多くのロシア人に苦痛を与えている現実がある。

関連記事一覧