贅沢な時間を味わう|スペインのコーヒー事情
スペインでは国民の約87%が毎日コーヒーを飲んでいるというデータもあるほど、コーヒーが愛されている。世界的にも注目される高品質なコーヒー豆と、独自の方法で焙煎されるその味は傑出していて、人々は様々な種類のコーヒーを時間帯や好み・気分で飲み分けて楽しんでいる。バルが有名なスペインだが、バルはお酒を楽しむだけではなく、実はコーヒー文化とも強く結びついている。テラスで朝からお喋りを楽しみながらコーヒーで贅沢なひとときを過ごしている人々も多い。
本記事ではコーヒーを飲むことが生活の一部となっているスペインにおけるコーヒー文化をお伝えする。
贅沢な時間を味わう|スペインのコーヒー事情
著者:スペインgramフェロー 北田ミヤ
公開日:2024年7月1日
スペインのコーヒー文化
イタリアやフランスなど他のヨーロッパ諸国とは異なり、スペインのコーヒー文化は独自の進化を遂げている。
コーヒーチェーン店でテイクアウトすることは一般的ではなく、バルやカフェでゆっくりとコーヒーを楽しむのが主流だ。
スペインのカフェ文化は18世紀に始まり、最初のカフェは1764年にマドリードに開店した「Fonda de San Sebastián」とされている。それ以降、カフェは知識人・作家・政治家などが集まる場所として発展していった。
スペインの特徴的なコーヒーのひとつに「トレファクト」がある。これはコーヒー豆を焙煎する際に砂糖を加えキャラメル化させる方法で、独特の苦味・風味を生み出し酸化から守る、1936年頃から伝わる歴史的な焙煎方法であるが、現在でもその風味を好む人が多い。トレファクトはコーヒー本来の香りを覆い隠してしまうという側面もあるため、現在ではより高価で風味豊かな「アラビカ種」を焙煎した(Natural)を半分加えたMEZCLA(メスクラ=mixed)が主に飲まれている。
代表的なコーヒーブランドとしては、Bonka、 Bou、Catunambú などがあり、特にCatunambúはアンダルシア地方で1897 年から続く長い歴史を持つマスターコーヒーロースターである。彼らのコーヒーは、伝統、情熱、濃厚な香りと特別な味わいをもつ「アンダルシアコーヒー」として親しまれている。
(参考元:Coffee in Spain – Everything you need to know – Your Coffee Site
https://yourcoffeesite.com/coffee-spain/)
(参考元:How to Make Coffee Like the Spanish | Best Spanish Coffee – RAVE COFFEE
https://ravecoffee.co.uk/blogs/news/spanish-coffee)
スペインのコーヒー市場
国内のコーヒー生産量は、昨年、前年比1.5%増の13億3,200万ユーロで、5.6%増の198,500トン近くとなった。
収益は12.04%の年間成長率(CAGR 2024-2029)になると予想され、2029年までに4億5,950万米ドルの市場規模が予測されている。
(参考元:Coffee – Spain | Statista Market Forecast
https://www.statista.com/outlook/emo/beverages/hot-drinks/coffee/spain)
多種多様なスペインのコーヒーについて解説
レストランやバーでは様々な種類のコーヒーを注文できる。あまりの種類の多さに戸惑ってしまうが、一般的なものは以下の通りである。
「カフェ・ソロ(Café solo)」
スペインで最も一般的に注文されるタイプのコーヒー。通常小さなグラスで提供される、ブラックエスプレッソコーヒーである
「カフェ・コン・レチェ(Café Con Leche)」
カフェ・ソロに続き人気のコーヒー。特に朝の一杯としてオーダーする人が多い。半分がカフェ・ソロで、半分がミルクのミルクコーヒー
このカフェ・コン・レチェ、ミルクを常温のものや冷蔵庫から取り出したものをそのままカフェソロに注いで提供する店が多く、ぬるく感じることが珍しくない。筆者はオーダーする際に必ず「muy caliente por favor!」(Very hot please!)とお願いしている。スペイン滞在中に熱々のミルクコーヒーを飲みたい場合、この一言を付け加えることを強くお勧めする。
「カフェ・ボンボン(Café Bombo)」
カフェ・コン・レチェのバリエーションで、コンデンスミルクが入った小さなグラスにカフェソロがゆっくりと注がれる、甘いコーヒー
「カフェ・コルト(Café corto)」
カフェ・ソロよりさらに濃いブラックコーヒー。カフェソロと同じ量のコーヒー豆を約半分の水で抽出する
「カフェ・ラルゴ(Café largo)」
カフェコルトとは逆にカフェソロの2倍量の水で抽出する、イタリア発祥のコーヒー
Café lungo(カフェ・ルンゴ)と呼ばれることもある
「カフェ・アメリカーノ(Café Americano) 」
カフェ・ラルゴに似ているが、水で抽出したエスプレッソに後からお湯を加える
「カフェ・コルタード(Café Cortado)」
カフェソロに似た濃いブラックコーヒーだが、ミルクが少量入っている
エスプレッソ75%・ミルク25%の割合が主流
「カフェ・ソンブラ(Café Sombra)」または「カフェ・マンチャド(Café Manchado)」
カフェコルタードと逆の、ほとんどがミルクで、少量のコーヒーが入っているコーヒー
「カフェ・コン・イエロ(Café Con Hielo)」
Hieloは氷の意。アイスコーヒーとして飲まれるコーヒー
スペインでは温かいエスプレッソコーヒーと氷を入れた別のグラスが提供され、氷の上にコーヒーを注ぎながら味わう。
「カフェ・カラヒージョ(Café Carajillo)」
夜に多く飲まれるアルコール入りのコーヒーだが、朝から飲むことも特に珍しくない
伝統的なカフェ・カラヒージョは、少量のブランデーを使ったカフェ・ソロだが、ラム酒やウイスキーなど店によって異なるアルコールが使われる
(参考元:Types of Coffee in Spain Explained + History of Spanish Coffee
https://www.spainmadesimple.com/spanish-coffee/)
世界的チェーン店は驚くほど少ない
前述の通り、スペインではバルやカフェでコーヒーを楽しむ文化が根ざしていて、至る所にお店が点在するため、コーヒーが飲める場所を探すことには全く事欠かない。したがってチェーン店の数が驚くほど少ない。
コーヒーの世界的チェーン店であるスターバックスの数で比較してみよう。
2024年現在、スペインには173店舗のみ。
世界トップのアメリカが16346店舗、4位の日本が1733店舗と比較してもかなり少ないことがお分かりいただけるだろう。
バルなどでのカフェコンレチェ(Café Con Leche)の価格が約€1.5~€2.5に対し、スターバックスのTall Latteの価格は約€3.5なので、割高感がある点もチェーン店が普及しない理由のひとつかもしれない。
(参考元:Starbucks Stores by Country 2024
https://worldpopulationreview.com/country-rankings/starbucks-stores-by-country)
(参考元:Which Countries Have the Most Starbucks Stores? (visualcapitalist.com)
https://www.visualcapitalist.com/charted-which-countries-have-the-most-starbucks-stores/)
まとめ
スペインの人々にとってのコーヒータイムは、1日のスタート、社交の場、ビジネスミーティングや友人との待ち合わせ、食後のリラックスタイムなど幅広く利用され、生活の一部となっている。また、古くから伝わる独特の焙煎方法、多種多様な楽しみ方など独自の進化を遂げてきたそのカルチャーは非常に魅力的で、他のヨーロッパ諸国とは一線を画している。
スペインに滞在する際には、スペインならではのコーヒー文化を体験し、ゆったりとした贅沢な時間を過ごしてみてはいかがだろう。