ストリートアート?破壊行為? 公共空間への落書きに対する罰則強化│スペイン

スペイン

スペインでは落書き(グラフィティ)が都市景観や公共財産に与える影響が、深刻な社会問題となっている。特に都市部では鉄道車両や公共施設への落書きが頻発し、多額の損害や治安への懸念を引き起こしている。そんな中、今月、アストゥリアス州の裁判所はグラフィティアーティストに対して損害犯罪の加害者として歴史的判決を下し、多くのメディアによって大きく報じられた。

本記事ではスペインの落書き問題についてお伝えする。

ストリートアート?破壊行為? 公共空間への落書きに対する罰則強化│スペイン

   著者:スペインgramフェロー 北田ミヤ
公開日:2025年7月23日

歴史的判決の中身

2016年から2018年にかけて、スペインの国営鉄道「Renfe」の34両もの旅客車と貨物車にグラフィティを描いたアーティストに対し、アストゥリアス州の裁判所は今月、3年の懲役と16万ユーロ(約2580万円)の罰金・補償金を課す判決を下した。この判決は、多くのメディアによって“歴史的懲罰”と報じられた。

鉄道における破壊行為は落書きの他にも、石打ち、ガラスの破損、安全設備の改ざんなど多岐にわたり、乗客の安全に悪影響を及ぼしている。Renfeによると、2024年には6,568件の破壊行為が報告され、その修復費用は1,120万ユーロ(約18億円)に達したという。このような破壊行為でカタルーニャ州が最も影響を受けており、全体の約37%を占めている。 中でも落書きによる影響は深刻で、2024年には90,000平方メートル以上の落書きを清掃し、年間2,500万ユーロ(約40億円)のコストを費やしたと報告されている。

Renfeは破壊行為への対応に多額の資金を投じているものの、被害は依然として続き、公共交通機関の運行にも影響を及ぼしている。今回の判決は、犯罪行為の重大性と、それによって国家や市民が負担せざるを得ないコストへの認識を促す、司法による重要な判断となった。

(写真:景観を損なう公共空間への落書き)

主な都市での落書き問題と対応

前述の通り、バルセロナではRenfeや地下鉄車両への落書きによる被害が深刻化している。2017年~2019年の3年で6,741件の器物損害が報告され、被害総額は2,200万ユーロ(約30億円)に上った。これを受け、2020年には99人が逮捕される大規模摘発が行われた。 さらに、2023年には落書き対策として2,500万ユーロ(約37億円)を費やし、セキュリティ強化を実施している。

同じく落書きによる重大な被害を受けているマドリードでは、公共物への落書き対策としてSEPROPUR(セプロプール)という特別部隊が編成された。この部隊は約50人で構成され、都市遺産の保護を目的に、違法な落書きの監視やリスクマップの作成、証拠収集などを行っている。 それにもかかわらず、2023年には落書き除去の対象面積が前年比より70%増加し、問題の深刻さがより鮮明になった。

取り締まりの効果が十分に現れない中、バルセロナでは公共空間への落書きに対する罰金が300ユーロから500ユーロに引き上げられた。また、マヨルカ島最大の都市であるパルマ・デ・マヨルカでは、落書きが『軽微な違反』から『重大な犯罪』に格上げされ、最大3,000ユーロの罰金が科される可能性があるなど、各地で罰則が強化されている。

(写真:違法なグラフィティ)

芸術と破壊行為の境界線

スペインは、ヨーロッパの中でもグラフィティが盛んな国のひとつであり、特にマドリード、バルセロナ、バレンシアなどの都市では、1980年代以降、ヒップホップ文化の影響を受けてグラフィティが広まった。このような背景から、グラフィティを『市民の声』や『都市のアイデンティティ』として肯定的に捉える人も多い。また、一部の地域ではストリートアートを巡るツアーが存在し、観光資源としての側面も持っている。

『アート』と『犯罪』の境界線の曖昧さを整理するため、マドリードでは表現の場を提供しつつ、無許可の落書きを減らす試みとして、『Muros Tabacalera』プロジェクトが実施されている。このような取り組みの一環として、自治体がアーティストに壁面を正式に提供し、合法的に創作活動を行わせる動きが広がっている。

また、学校教育やワークショップを通じて『創造と破壊の違い』について考えさせる活動も広まり、特に若者の間で意識改革が進められている。

(写真:違法なグラフィティと落書き)

まとめ

無許可で公共物や文化財に落書きをする行為は決して許されるものではなく、今回の犯罪行為に対する歴史的判決は、非常に重く受け止められるべきである。一方で、スペインの文化的背景も影響し、グラフィティを単なる違法行為とするのではなく、社会的・芸術的な観点から再評価する動きもある。

表現の自由と公共の利益のバランスは、今もなお議論の的となっている。

◇Condenado a tres años de prisión por pintar en trenes de Renfe:
https://www.rtve.es/noticias/20250402/mayor-sentencia-grafitis-tres-anos-prision-indemnizacion-renfe-155500-euros/16517913.shtml

◇スペインプレス │ バルセロナ 警戒事態発令中  電車への落書き 被害総額22百万ユーロ 99人を逮捕:
https://spain-press.com/2020/11/12/grafitero-detenido/?utm_source=chatgpt.com

◇Renfe’s Battle Against Graffiti: The €25 Million Vandalism Problem – Underground Art Report:
https://undergroundartreport.com/2024/02/renfes-battle-against-graffiti-the-e25-million-vandalism-problem/?utm_source=chatgpt.com

◇Related news: Palma Mallorca: 3,000-euro fines for graffiti:
https://www.majorcadailybulletin.com/news/local/2024/11/27/129301/palma-mallorca-000-eur o-fines-for-graffiti/related.html?utm_source=chatgpt.com

◇CATALYST PLANET:
https://www.catalystplanet.com/travel-and-social-action-stories/2020/1/21/spains-graffiti-phe nomenon-w9ya8, https://cooltourspain.com/

◇Spanish transportation: Violent graffiti artists overrun subway stations in Madrid and Barcelona | Spain | EL PAÍS English:
https://english.elpais.com/elpais/2018/11/06/inenglish/1541507753_705923.html

◇Page not found – isla Travel ♥ Experience Mallorca.:
https://isla-travel.de/en/mallorca-magazine/police-step-up-measures-against-local-sprayersand-graffiti-tourists/

◇What’s the law on graffiti in Spain?:
https://www.thelocal.es/20230217/whats-the-law-on-graffiti-in-spain

北田ミヤ

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スペイン在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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