多様性が広がるスペイン|人口増加がもたらす変化

近頃街を歩いていると、聞こえてくる言語や人々の多様性が明らかに変化していると感じる。ラテンアメリカ系のスペイン語に加え、アラビア語、アジア系の言語、ロシア語など、さまざまな言語を耳にする機会が増えた。話しかけてきた相手に「スペイン語が下手でごめんなさい」と伝えると、「私もスペイン語がうまく話せません」と返されることもある。
こうした肌感覚を裏付けるように、スペインの人口は2025年に過去最高の4,907万8,000人に達し、記録的な数となっている。その増加のほとんどは国外出生者によるものである。かつて移民の国といえばアメリカや英国が思い浮かんだが、近年ではスペインがヨーロッパの中でも最も人口が“外から”増えている国のひとつとなっている。
多様性が広がるスペイン|人口増加がもたらす変化
著者:スペインgramフェロー 北田ミヤ
公開日:2025年12月26日
移民が人口を支える国へ
スペインは出生率が1〜2前後と低く、自然増だけでは人口減少を避けられない状況にある。実際、スペイン人のみの人口は横ばい、もしくは微減傾向にある。
ところが2024年から2025年にかけて、全体の人口は増加を続けている。スペイン統計局(INE)によれば、2024年だけでも13万人以上が国外出生者として新たに人口に加わった。また、外国籍の住民はすでに人口の13.4%を占めている。
ヨーロッパ全体で移民政策が厳格化する中スペインは比較的柔軟な姿勢を保っており、EU圏外からの労働者や、言語的互換性の高い南米出身者、観光・投資目的の滞在者、さらには紛争や政治的背景を抱える移住者など、多様な背景を持つ人々が流入している。

誰がスペインに来ている?
スペインの移民構造は非常に多様だが、以下にその主な特徴を整理する。
① ラテンアメリカ系
コロンビア、ペルー、ベネズエラ、アルゼンチンなどからの移民は年々増加しており、現在では最大の流入源となっている。言語的な障壁が少ないため、労働市場への統合が比較的スムーズである点も魅力といえる。INE(スペイン統計局)の統計によれば、ラテンアメリカ系外国人で最も多い国籍はコロンビア(587,477人)であり、2025年第1四半期には39,800人のコロンビア人が新たに流入したと報告されている。
② アフリカ系
長年にわたり定着している層の中心はモロッコ出身者で、農業・建設・サービス業などにおいて重要な労働力となっている。INEの統計によると、最も多い外国人国籍はモロッコ(920,693人)であり、また帰化(スペイン国籍取得)においてもモロッコ出身者が最多となっている。2024年には42,910人がスペイン国籍を取得した。
③ 欧州系
ウクライナからの避難民や、ロシアからの長期滞在者・投資移住者が、特にコスタ地域(地中海沿岸)を中心に増加している。筆者自身、街中でロシア語を耳にする機会が増えたと感じていたが、統計の変化を見てもその実感は裏付けられる。
④ アジア系
アジア系は全体としては少数派だが、存在感を増している。中国、パキスタン、インドなど多様な出身国があり、飲食業や小売、貿易、さらにはIT分野においてもプレゼンスが高まりつつある。

社会構造の変化と課題
スペインで働き、社会保障などに登録されている外国籍労働者は270万人を超えており、観光・介護・IT・農業など、国の主要産業はもはや移民なしでは成り立たない段階に入っている。移民の増加により都市の多文化化が加速しており、2023〜2024年度に外国籍の生徒数が初めて100万人を超えたとの報告もある。多言語表記の増加、文化イベントの多様化、宗教施設の拡充など、生活空間は急速に多様化している。特に地中海沿岸地域では、欧州北部、ロシア、アジアからの移住者が集中しており、もはや「国際都市圏」と呼べる状態となっている。
富裕層の外国人による住宅購入も増加しており、バレンシアやアリカンテ周辺では不動産価格が高騰している。2025年4月3日に発効された「ゴールデンビザ廃止(投資による居住許可の廃止)」は、この流れと密接に関係している。移民の急増は政治的議論も活発化させており、移民が経済を支えているという現実が、排他的な政策をとりにくい構造を生み出している。人口増加はスペインにとって多くのプラスをもたらす一方で、課題も顕在化している。
医療・教育といった社会インフラへの負荷、住宅価格の上昇、地域間格差、移民2世・3世のアイデンティティ問題、社会統合の難しさや言語の壁、そして移民依存型の労働市場構造など、問題は少なくない。特に若年層では移民の割合が高く、多様性の中で新しいスペインらしさが育まれていくのかもしれない。
まとめ
少子高齢化が進行するなか、移民は今やスペイン社会を支える不可欠な柱となっている。 観光立国として、また外国人に開かれた文化を持つスペインは、今後も世界中から多様な人材を引きつけ続けるだろう。人口増加は単なる統計上の現象にとどまらず、労働供給、消費市場の拡大、都市開発、国際競争力、そして社会インフラへの投資計画といった、ビジネスの根幹に深く関わっている。
とりわけ、労働市場と都市経済はすでに”移民なしでは成り立たない構造”へと変化しており、企業にとっても対応が急務となっている。今後は、多国籍人材の採用・育成、多文化市場に対応した製品・サービスの開発、さらには不動産戦略や拠点配置の見直しなど、多様性を前提とした経営戦略が求められる時代が本格的に到来する。異なる言語や文化が交わり、新しい可能性が生まれるこの変化の中で、スペインは「誰がスペイン人か」という問いを超え、「どんな未来を共につくるか」という問いに向き合い始めているのかもしれない。
【参考】
◇PopulationPyramid.net Population Pyramids of the World from 1950 to 2100 :
https://www.populationpyramid.net/
◇Inmigración y mercado de trabajo en España:
https://www.realinstitutoelcano.org/analisis/inmigracion-y-mercado-de-trabajo-en-espana/
◇El número de alumnos extranjeros en España aumenta en un 7,1% en el curso 2023-2024 y supera por primera vez el millón:
https://www.europapress.es/sociedad/educacion-00468/noticia-numero-alumnos-extranjeros-espana-aumenta-71-curso-2023-2024-supera-primera-vez-millon-20240628124017.html
◇Spain’s Congress approves law ending ‘golden visas’:
https://www.idealista.com/en/news/legal-advice-in-spain/2024/11/29/821278-congress-approves-law-ending-golden-visas-they-will-be-eliminated-from-2025





















