トマト大国スペインに日本発高糖度トマト『アメーラ』参入
ここスペインのマーケットには、カラーやサイズの異なる多種多様なトマトがずらりと並ぶ。
La Tomatina(ラ・トマティーナ)は筆者の住むスペイン・バレンシア州で開催される、大量のトマトを投げてぶつけ合うトマト祭りである。参加者全員トマトまみれで町中は真っ赤に染まる、世界中から参加者が集まる人気のイベントだ。
そして、スペイン料理にトマトは欠かせない。代表的なものに Pan con tomate(パン・コン・トマテ)や、夏に好んで飲まれる冷製スープの gazpacho(ガスパチョ)などがあり、スペイン人とトマトは切っても切れない関係だ。本記事ではそんなトマト大国スペインに参入している日本のトマトAmela(アメーラ)に注目する。
トマト大国スペインに日本発高糖度トマト『アメーラ』参入
著者:スペインgramフェロー 北田ミヤ
公開日:2023年12月8日
日本発の高濃度トマトAmela(アメーラ)
日本が誇る、あま~い高糖度トマト、アメーラをご存知だろうか?
筆者は日本在住時、アメーラトマトの美味しさに魅了され、好んで購入していた消費者の一人である。
アメーラは1996年に静岡の小さな農家がたった3人で栽培をスタートした高糖度トマトで、名前の由来は静岡弁の「~ら」(このトマト)甘~ら?あめ~ら?と、“甘いでしょ?”という言葉がそのまま名前になった、ネーミングセンス抜群の甘くておいしいトマト。独自の栽培方法で厳しい基準をクリアしたトマトのブランド名であり、トマトの品種名では無い。
高糖度に加え、酸味・コク・風味のバランスが抜群の最高品質。その甘さは一般的なミニトマトの糖度が5~6度、アメーラは10度以上といわれている。
日本国内では静岡を中心に9か所で生産されており、2018年からはスペイン南部のアンダルシア州に拠点のある大手農業共同組合との合併会社においての生産がスタート、ヨーロッパを中心に出荷されている。
(引用元:Granada La Palma – Referentes europeos en la producción de tomates cherry https://www.amela-tomato.com/en)
ヨーロッパでAmela(アメーラ)に熱い視線
そんな高糖度トマトアメーラのヨーロッパ進出のきっかけは、2015年にイタリア・ミラノで開催された“食”がテーマのミラノ万博への出展だった。
欧州進出の理由のひとつに、当時ヨーロッパには高糖度トマトやグルメトマトといったカテゴリーが無かったことが挙げられる。
確かにここスペインの一般的なグロッサリーでは、日本で簡単に手に入る糖度の高いフルーツトマトのような品種は見かけない。
前述の通り2018年に鮮度重視で現地スペインでの生産をスタートさせたアメーラが、3年後の2021年、ヨーロッパでSuperior Taste Award(優秀味覚賞)の最高賞である三ツ星を受賞する。この賞はInternational Taste Instituteが主催するシェフソムリエ200名以上の味覚審査により選ばれる優秀賞で、中でも三ツ星は総合評価が90%以上超の最高賞にあたる。
更に翌2022年には、ドイツ・ベルリンで開催された、世界の果物・野菜の分野で最も権威のあるFruit Logistica Innovation Award(FLIA) の最高賞であるGOLD AWARD(金賞)に輝いた。
このヨーロッパにおける相次ぐ受賞でアメーラトマトが高評価を受けたことは、今後海外展開を目論む日本の農産物に携わる関係者へ大きな希望を与えたに違いない。
(引用元:Amela tomato wins Innovation Award | Article | Fruitnet
https://www.fruitnet.com/eurofruit/amela-tomato-wins-innovation-award/188033.article)
(引用元:International Taste Institute – ITQI – Granada La Palma S.Coop.And. | Amela ® (taste-institute.com)
https://www.taste-institute.com/ja/awarded-products/product-details/9019809)
本場スペインで最も高く売れるトマト?!
岩崎邦彦著(日本経済新聞出版)の「世界で勝つブランドをつくる なぜアメーラトマトはスペインで最も高く売れるのか」という書籍がある。タイトルの通り、本当にアメーラトマトはスペインで最も高いのか?
以下、2023.11現在の現地トマトとアメーラトマトの価格(10種類を抜粋)を比較した。
値段と重さ | 品種名 |
(2,99 €/kg) | Tomate verde |
(3,69 €/kg) | Tomate San Marzano |
(3,99 €/kg) | Tomate de ensala |
(4,59 €/kg) | Tomate Cayetano |
(4,95 €/ Kg) | Tomate raf bandeja |
(7,50 €/Kg) | Tomate azul |
(7,95 €/kg) | Tomate rosa de Barbastro |
(9,96 €/ Kg) | Tomate cherry rama |
(14,75 €/Kg) | SAN LUCAR tomate cherry |
(31,19 €/kg) | Tomate Amela |
60種類のトマトを比較した結果、2~5€台(1kg)のトマトが占める割合は72%と最も多く、アメーラの価格は一般的なトマトの約10倍。アメーラの次に高いトマトと比較しても2倍以上と、群を抜いて最も高価なトマトとなっている。
ただ、筆者が近場のグロッサリーストアや八百屋などを10件ほどまわりアメーラトマトを探したところ、店頭で見つけることはできなかった(現在11月ということもあり季節が関係あるかもしれない)。
高級食材を取り扱うスペインの百貨店El Corte Ingles(エル・コルテ・イングレス)でも見つけることが出来なかったが、上記価格にてオンラインストアでの購入は可能。
価格帯及び入手経路を照らし合わせると、現状ではスペイン人が気軽に手にとって日常的に味わうトマトというよりは富裕層や高級レストラン向け、あるいは特別な日の贅沢トマト、といった位置づけになっているように感じた。
(引用元:Tomates · Frescos · Supermercado El Corte Inglés · 3
https://www.elcorteingles.es/supermercado/frescos/frutas-y-verduras/verduras-y-hortalizas/tomates/3/)
まとめ
日本では当たり前に存在している「グルメトマト」が、アメーラトマトのヨーロッパ進出によりトマト大国スペインで“高糖度トマト”というジャンルを確立し、スペインで一番高級なグルメトマトの地位を築き上げた。
そして「高糖度」というワードに注目すると、現在アメリカでは日本発Oishiiの高糖度イチゴが高価格帯にも関わらず人気を博している。
筆者は5年前までアメリカに住んでいたのだが、当時甘いイチゴを入手することが出来なかった。ここスペインをはじめ、ヨーロッパのイチゴも甘くないものがスタンダードだ。
地域や国民性によって「おいしい」と感じるところが異なるのかもしれないが、日本の優れた栽培技術による「高糖度」の野菜や果物が世界で認められつつあることは間違いない。
次はぜひとも世界トップクラスの日本の「高糖度イチゴ」のヨーロッパ進出に期待したい。