スペインの水道水は飲用可能?
スペイン生活で困っている事のひとつに水道水の問題がある。日本の水道水は約95%が軟水であるのに対し、スペインは硬水である。環境への配慮から自治体は水道水の飲用を推進しているが、ここスペイン、バレンシアではボトル入り飲料水を購入するのが一般的だ。その一因は100%取り除ききれない水の悪味である。筆者も飲用、料理に使う水、共にペットボトルの水を利用しており、スペインで水道水を飲用することは非現実的であるという認識で過ごしてきた。
ところが最近、マドリードから引っ越して来た友人が「バレンシアは水道水が飲めなくて本当に不便!」と嘆いているのを聞き、大変驚かされた。どうやらスペイン国内でも水道水を問題なく飲用している地域と、そうでない地域とがあるようなのだ。
本稿ではスペイン国内、特にバレンシアの水事情についてお伝えする。
スペインの水道水は飲用可能?
著者:スペインgramフェロー 北田ミヤ
公開日:2023年12月28日
バレンシア人がボトル入り飲料水を消費する理由
人間の体の60%以上は水分でできている。従って水は我々の生活に最も欠かせない物のひとつである。
スペインの平均的な家庭は、年間約1500リットルの飲料水を消費するといわれる。
ところが冒頭でお伝えした通り、バレンシアで水道水を飲用している人はごく僅かで、ほとんどの家庭がボトル入り飲料水を消費している。
水道水の99%が飲用水以外として利用されているというデータもあるほどだ。
スペインのボトルウォーター市場の収益は2023年に76億USドルに達し、今後も毎年5.81%成長すると予測されている(CAGR 2023-2027)。
ボトル入り飲料水の場合、1年に消費する約1500リットルの水にかかる費用は300€以上となり、それに伴ってプラスチック廃棄物の問題にも直面する。
また、皮肉なことに、バレンシアの水道水はボトル入り飲料水よりカルシウム・マグネシウム・カリウムなどのミネラルが豊富で、水質はスペイン政府・EUの厳しい基準に準拠しており、飲用する上でまったく問題無いのである。
にもかかわらず、ほとんどのバレンシア人がサステナブルな暮らしに逆行しボトル入り飲料水をわざわざ購入する理由は何なのか。
「味」である。
この問題を解決するため、Metropolitan Hydraulic Services Entity(メトロポリタン油圧サービス事業体)は、カルシウム×塩素の組み合わせにより生成される“おいしくない水”の良化に何百万ドルも費やし、水の悪味を取り除く計画に着手した。それは多少の改善をもたらしたが、バレンシアの水道水が“おいしい水”になるには至らず、依然として多くのバレンシア人がボトル入り飲料水を好むという現状を打破できないままだ。
(引用元:Can you drink the tap water in Valencia? https://tapwaterpro.com/valencia-spain/)
(引用元:Statista Market Forecast :Bottled Water – Spain
https://www.statista.com/outlook/cmo/non-alcoholic-drinks/bottled-water/spain#:~:text=The%20revenue%20generated%20in%20the,(CAGR%202023%2D2027).
)
なぜバレンシアの水は美味しくないのか
水道水供給における水の浄化プロセスは他のスペインの都市と同じなのに、なぜバレンシアの水道水は美味しくないのか。
その答えはバレンシアの土地の特性にあるようだ。
Jucar川とTuria川の土壌はどちらも石灰質で、高濃度のカルシウムが含まれている。
この高濃度カルシウムが雨と共に川に流れ込み溶けてミネラルとなり、浄化プロセスで添加される塩素と消毒剤が混ざりあい、水に悪い風味を与えてしまう。
一方、マドリード(スペイン北部)の土壌はsiliceous(珪質 – 成分として珪素を含む岩石や鉱物に用いられる性質)であり、同じ浄化プロセスを辿っても美味しく飲用できる水道水が供給されるというわけだ。
このため、スペイン国内でも土壌の特性により水の味に大きな違いがでるのである。
(引用元:¿Por qué el agua del grifo en Valencia sabe tan mal? | Comunidad Valenciana Home | EL MUNDO
https://www.elmundo.es/comunidad-valenciana/2017/11/10/5a049586ca474142478b45e4.html)
政府は水道水の消費を奨励したい
2020年以来、地方自治体は持続可能な代替手段として水道水の消費を推進してきた。
例えば公園などの公共の場に設置されたマイボトルに水道水を供給できる機械には、
#bebeaguadelgrifo
#beuaiguadel’aixeta
#drinktapwater
のようにハッシュタグが3言語で表記され、「水道水を飲もう!」とアピールしているのを目にする。
また、全国的に実施している“Progrifo”キャンペーンでは、既存の飲料水源の場所・保存状態などの情報開示を行い、地元の水道水管理のイメージアップをはかったり、人々の水道水消費を向上させる様々な取り組みを行っている。
だが、最終的に水の風味が改善されない限り、これらの取り組みが功を奏することは難しそうである。
まとめ
今回スペイン国内の水に注目するにあたり、日本人にも馴染みのあるサグラダファミリアのあるカタルーニャ州の州都・バルセロナについても調査してみたところ、場所によって水道水を美味しく飲める地域と、土壌の特性により水道水をほとんど飲まない地域に分かれることが分かった。それと同時にバレンシアとは違った問題に直面していることもわかった。この100年で最悪ともいわれる歴史的な干ばつによる水不足である。
一方、バレンシアは水の悪い風味との闘いが続いている。開発に5年を費やし、環境への配慮に加え石灰を取り除く、Eco Proというフィルターが注目を集めるがamazon.esのレビューで見る限り、☆1が一番多いという悪評ぶりで自治体・企業ともに「水の風味」の改善にはかなり苦戦しているようだ。
人々の生活に欠かすことのできない安全な水の確保は、今や世界的な課題でもあり、2050年までに世界人口の40%以上の人々が深刻な水不足におそわれる可能性もあるとされる。
今後、日本の高い技術力が武器となって、スペインはもとより世界規模で水に関するビジネスチャンスが広がると考えられる。