アメリカで広がるスーパーフード“マッシュルーム“と“しいたけ“

アメリカ

“マッシュルーム“(きのこ)は、今日のアメリカではスーパーフードとして認識されている。ヘルシーかつ現代人が求める様々な効能を持つ食材として、注目が集まっている。アメリカ市場には、日本ではまだ珍しい多種多様なマッシュルーム食品が並ぶ。そしてマッシュルームの人気拡大は、“しいたけ“に大きな好影響をもたらしている。マッシュルームが注目を集める理由やしいたけとの関係性を探っていく。

アメリカで広がるスーパーフード“マッシュルーム“と“しいたけ“

    著者:アメリカgram fellow 礒野 伊桜里
公開日:2023年10月31日

健康志向がマッシュルームをスーパーフードにする

今、アメリカまたは世界で注目を集める食材のひとつが、マッシュルームだ。もちろんここでいうマッシュルームは、違法性のあるドラッグではない。身近な食材であるマッシュルームは、豊富な栄養価と健康への効能が魅力的だと話題になっている。今やマッシュルームは“スーパーフード“と言われる存在になった。アメリカのメディアが、スーパーフードとしてマッシュルームを積極的にとりあげ始めたのは2019-2020年頃。その後も徐々に注目度は高まっている。

アメリカにおけるマッシュルームは、きのこ全般を示している。それにしてもこれほどまでに身近な食材が、いかにして一般消費者や様々なビジネスから注目を集めるようになったのか。主な理由は、世界的にヴィーガンなどヘルシーな食生活への志向が強くなっていること。そしてコロナ以降、人々の免疫力や健康面への意識が高まったこと。さらには、しいたけ栽培がサスティナブルで環境へのダメージが少ないという特性が時代にマッチしていることが挙げられる。

世界のマッシュルーム市場は継続的な拡大が予測されている。2022年4月27日付けOnline Bloombergは、Zion Market Reaserch社のリサーチデータを発信した。(*1)同リサーチによると、マッシュルームの世界における市場規模は2021年の約500.4億ドル(約7兆4400億円)の収益に対して、2028年までに倍の約1000.1億ドル(約14兆8700億円)の収益になる見込み。また2022年〜2028年の期間、年平均成長率は約9.8%を記録する想定だ。マッシュルーム人気は一時的ではないといえる。

*1 Zion Market Reaserch社:アメリカの市場リサーチ会社

(引用元:Bloomberg
https://www.bloomberg.com/press-releases/2022-04-27/mushroom-market-size-worth-100-1-bn-globally-by-2028-at-9-8-cagr-strategic-investment-plans-business-opportunities

“Functional Mushrooms“に期待される市場成長

マッシュルームの中でも、今スーパーフードとして注目を集めるのは“Functional Mashrooms“と総称される品種類だ。名前の通り、身体や健康への効能を持つ品種とされている。統一された定義はないものの、様々なリサーチやメディアでFunctional Mushroomとみなされているのは、Reishi(霊芝)、Cordyceps(ノムシタケ属)、Lion‘s Mane(ヤマブシタケ)、Turkey Trail(カワラタケ)、Chaga(チャーガ)など。そして日本人にとって親しみが深いShiitake(しいたけ)も含まれている。

(引用元:Grand View Research https://www.grandviewresearch.com/industry-analysis/functional-mushroom-market-report

あとに触れるが、マッシュルームの話題性を発端に、しいたけの知名度はアメリカ市場で格段に上がっている。日本食と縁の深いしいたけやその他のFunctional Mushroomsはどのような効能が期待されているのか。

期待される効能は、現代人の悩み解消と病気治療

Functional Mushroomが持つ効能は、免疫力の向上や睡眠の質の向上、脳機能の活性化、コレストロールの低下などが挙げられる。なおかつ低カロリーでヴィーガン、そしてプロテインや食物繊維、ビタミンなど豊富な栄養素を含む。忙しさやジャンクフードで食生活が乱れやすい現代人にとっては魅力的な要素ばかりだ。実際に、コロナ以降は多くの人がリモートワークに切り替わり、仕事のお供として「ブレインコーヒー」の人気に火がついた。集中力の向上に効果があるとされるマッシュルームの成分を含むインスタントコーヒーで、アメリカから日本にも輸入されるようになった。また、医学的な面でもガン予防・治療への効果が期待されている。歴史を振り返ると、マッシュルームは、中国などアジア諸国で漢方や薬膳、医学的場面に用いられてきた。

しかし、実際にこれらの効能を明確に証明、または承認することは容易ではない。Food&Drug Administration(FDA:アメリカ食品医療薬局。アメリカの食品や薬品など幅広い項目の製品販売を管轄する組織)は、ガン予防の効果があるとされるReishi(霊芝)を、ガンまたはその他病状の治療薬として使用することを正式に承認していない。そしてアメリカ市場にはマッシュルームを使用した栄養補助食品(Dietary Supplements)が数多く存在するが、その安全性や有効性を承認する権限をFDAは有していない。つまり、安全性やラベルに記載する内容(健康効果など)が確かであるかは製造会社自身が確認し、責任を負うということだ。これはマッシュルームに限らず、どの栄養補助食品においても同様の状況だ。

(引用元:FDA https://www.fda.gov/consumers/consumer-updates/fda-101-dietary-supplements

(引用元:National Cancer Institute https://www.cancer.gov/about-cancer/treatment/cam/patient/mushrooms-pdq

マッシュルームの効能は魅力的なものばかりだが、そこには食品の効能を証明する難しさがある。そんな中でも、市場にはありとあらゆるタイプのマッシュルーム関連商品が溢れており、スーパーフードというワードの威力の大きさが感じられる。

スーパーフード以外の強みを持つしいたけの存在感

2021年の世界のFunctional Mushroom市場を用途ごと(食品・飲料、栄養補助食品、医薬、その他)に分けると、食品・飲料用途のセグメントが全体収益の約42%と最も大きな割合を占めた。そして栄養補助食品(Dietary Supplement)が30%以上。上記だと用途がざっくりしがちだが、実際に食品店などアメリカ市場の実体を見るとその多様な商品形態に驚く。

(引用元:Grand View Research https://www.grandviewresearch.com/industry-analysis/functional-mushroom-market-report

そして何より興味深いのは、様々なマッシュルーム商品の中に「しいたけ」を使った商品が非常に多い点だ。しいたけはFunctional Mushoomのひとつであるが、商品の多くに使われる理由はそれだけではない。多くのビジネスは、スーパーフードでありつつ、しいたけの強い“Umami“に魅力を感じている。Umami(うま味)は、元々認識されていた甘味・酸味・苦味・ 塩味とは異なる、5つ目の基本味として世界的に認められた味覚の一つだ。長年の研究の末、1998年1月14日付けのニューヨークタイムズ紙によって「Umamiは第5番目の基本味である」と取り上げられ、今では世界的な共通認識・用語となった。

(引用元:うま味インフォメーションセンター https://www.umamiinfo.jp/what/attraction/taste/

最新の市場状況と商品例

しいたけの存在によって、現在のマッシュルーム関連商品は2つのカテゴリーに分けることができる。ひとつは、スーパーフードであることやその効能にフォーカスした商品。もう一方は、Umamiに+αのセールスポイントが合わさったコンセプトの商品だ。2つのカテゴリーに共通するのは、ヴィーガンであることやマッシュルームの栄養素の高さに着目している点だ。様々な食品店を訪れて収集した、直近アメリカ市場で見られる幅広い形態の商品例を見ていきたい。

1. 効能にフォーカスした商品
同カテゴリーの商品は、庶民的なスーパーマーケットで見かけることは少ない。オーガニック系食品店またはヘルス&ビューティーショップ、ライフスタイルショップなど、若干ハイエンドな商品を置く店で見かける。特にニューヨークやロサンゼルスなどの消費意欲・金額の水準が高く、食生活への意識が進んでいるエリアでは、ミレニアルまたはZ世代の集まる店を中心にビジネス展開されている。また、後者のカテゴリーと比較すると商品形態が非常に幅広い。”食べる”というよりは”摂取する”感覚が強く、飲料関連からスプレータイプまで様々だ。

飲料類では缶入り以外に、パウダー状のコーヒーやお茶タイプ、コーヒークリーマーなど普段飲んでいる物で自然とマッシュルームの成分を摂取する商品が多い。ただ、味にはマッシュルーム感はなく、一般的なドリンクと何ら変わらない。そしてストレスを減らす働きや免疫力をサポートする効能を記載するパッケージが目立つ。


「POP&BOTTLE」と「RENUDE」はスーパーフードを強調した商品で、アメリカ市場における日本発のスーパーフードとして先駆者である抹茶にマッシュルームをミックス。抹茶ドリンクはアメリカの定番になっており、アメリカ人受けが良さそうな組み合わせだ。

また、食品類でも日常的な食品にマッシュルームの成分を加えるタイプが多い。「alice」はチョコレートにFunctional Mushroomの成分が入っているが、これも食感や味に違和感がない。

種類ごとに「focus&energy(集中力のサポート)」と「deep sleep(睡眠の質の向上)」との説明書き。「gwell」のクッキーも、Functional MushroomsのReishiとChaga入り。

その他にマウススプレーやリキッドタイプなど、サプリメント的な摂取方法の商品も散見される。

2.Umami+αをコンセプトにした商品
Umamiをアピールする商品は、マッシュルームの中でもしいたけのみを使用するケースが多い。またUmami以外の「+α」として強調するポイントはブランドごとに微妙に異なる。各商品HPを見ると、+αで用いられるポイントは主に3つ。豊富な栄養素やヘルシーさ、環境への配慮、プラントベースでサスティナブルな商品性だ。具体的には、豊富な栄養かつ肉製品に比べてヘルシーであること。家畜に比べて、しいたけ栽培に必要な水の量やCo2排出量が少ないことなどから、環境への負担が少ない製品であること。そして植物性の食材なのでサスティナビリティ性が高いことをポイントとしている。

(引用元:eat THE change. https://eatthechange.com/pages/mission

(引用元:munchrooms https://www.munchrooms.com/pages/why-mushrooms

スナックに該当する商品が多いため、主な取扱いは食品店。庶民的なスーパーマーケット以外に、Whole Foods Marketなどヘルシー志向な店ではより豊富な種類が取り置かれている。ジャンキーなスナックと比較すると、全体的にやや高めの価格設定だ。

Umamiが良く感じられる食べ方かつアメリカ人にも馴染みのある食べ方として、チップスまたはジャーキータイプの商品が圧倒的に多い。前者の効能系のカテゴリーの商品に比べると商品形態は限定的だ。

スーパーフードの流れを受けて、しいたけの知名度や存在感はアメリカ市場で強まっていることがわかる。そして、”Umami”というユニバーサルな特徴を持つしいたけは、他のマッシュルームにはない、スーパーフードの枠を超えたビジネスを展開している。

日本のしいたけがより注目される流れが来ている

マッシュルームがスーパーフードとして注目を集めた背景には、現代人が持つ食の志向や環境問題が隠れている。こうした背景から読み解くと、これまでの食卓でも身近だったマッシュルームの飛躍も不思議ではない。さらにはUmamiという言葉と共に広がるしいたけの存在は、日本のハイクオリティーな食材を世界へ届けるためのビジネスチャンスを作る潮流になるだろう。

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礒野 伊桜里

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アメリカ在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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