全国民医療費無料!ブータンの医療事情

ブータン

GNH(国民総幸福量)を尊重した政策により医療費が無料の国、ブータン。首都のティンプーにあるブータン最大のJDWNR病院の外来は、常時混み合い、連日患者が押し寄せている。医療品は全て輸入に頼っていたり、医療レベルにより患者を他国に移送する場合には国が費用を負担するので、高額な医療費が国の財政を圧迫していることが予想される。そんなブータンの医療について紹介する。

全国民医療費無料!ブータンの医療事情

   著者:ブータンgramフェロー よう 
公開日:2023年1月30日

医療費無料の国

ブータンはヒマラヤ山脈南に位置し、日本の九州とほぼ同じ面積に77万人が暮らす。この国はGNH(国民総幸福量)を尊重する政策をとっている。これは経済成長を重視する姿勢を見直し、伝統的な社会、文化や民意、環境にも配慮した「国民の幸福」の実現を目指す考え方である。GNHを基本方針とする政策の中に医療費無料が組み込まれていて、全国民は無償で医療を受けることができる(個室やシニアドクターの受診を希望する場合は一部有料)。たとえ旅行者であっても病院受診料は無料だ。

混み合う外来診療

ブータンは各地に国立の病院があり、首都ティンプーのJDWNR病院は国内最高の医療レベルを有する規模も最大の病院である。各地の病院で治療することが難しい場合にはこのJDWNR病院に運ばれる。救急車だけでなくヘリコプターも有しており、緊急時には出動する。

各地に病院はあるが、やはり国で一番の治療を受けたいとブータン中から患者が集まる。一般外来は毎日混雑している。

写真はJDWNR病院の外来受付開始時間、朝8時の受付の様子だ。朝早く来ても数時間の待ち時間は当たり前で、館内は寒く季節によってはつらい待ち時間であることが予想される。無料ではあるが定期的に受診するのは大変だろう。

家族看護が当たり前

この国では家族が24時間看護することが多い。家族が交代に休憩をとり排泄介助や食事の世話を担う。もちろん必要な場面では看護師が対応するが、メインで世話をするのは家族である。

職種にもよるが、家族の看護で休んでも給料が一部保証される制度がある。日本ではまだ女性がメインで世話をする印象があるが、ブータンでは男性も積極的に家族の看護に加わる。院内では家族の汚れた衣類を洗う男性の姿を見ることも珍しくない。

世話をする家族も院内で生活するが、家族用の待機部屋は狭く、ベッド等はないので持参した布団にくるまり睡眠をとる。そして家族用の食事の提供もない。病院周辺に食堂はあるが、多くの家族は親戚に食事を作ってもらいスープジャーやお弁当箱に入れて病院に届けてもらっているようである。

入院している本人だけでなく家族にとってもかなりハードな毎日になるが、ブータン人の家族の絆はとても強く、筆者が見かけた家族が看護をする様子はとても優しく、愛に溢れていた。

僧侶も24時間待機

ブータンは世界で唯一チベット仏教を国教とする国である。国民の信仰心は厚く、寺院に毎日行く人の姿を見ることも珍しくない。そんな国の病院には僧侶が24時間待機している。病棟を定期的に巡回し、それ以外にも家族が望んだ場合、患者が亡くなってしまった時には祈りを捧げに来てくれるのである。

ブータンのコロナ事情

ブータンはコロナの流行に対しロックダウンや予防接種の措置を行い、国内での感染コントロールに成功している。総感染者数は59,600人、死亡者数は21人となっている。
(引用:Covid-19 in Bhutan https://www.gov.bt/covid19/

現在は観光業も再開しており、今後感染者数増加も考えられるが、ワクチンの普及率は良いため重症患者の増加による医療圧迫は防ぐことが期待できる。

医療費問題

ブータンは国内市場が小さく、ほとんどのものをインドやその他の国からの輸入に依存しており、医療物品もその例外ではない。薬をはじめ、医療者の使用する手袋や注射などの資材等、全て輸入に頼っている。実際2021年の輸出額は33,555,000,000Nu(ニュルタム)であるのに対し、輸入額は90,229,000,000Nuと輸出額の約3倍となっている。
(2021年ブータン政府資料より抜粋)

また国内には治療できない診療科もあり、その場合はインドやタイへ患者を輸送している。その費用負担も国が担っている。

膨れ上がる医療費に対し、国民負担額無料とするのは財政的にかなり厳しいことが予想される。GNPを尊重した考え方と医療費増加の問題との狭間で揺れ動く、ブータンの今後の医療に対する政策に注目したい。

水野聡子

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タイ在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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