新たな外国人労働者ビザ制度がスタート:シンガポールの労働市場の新たな展望

シンガポール

シンガポール人材省は、2023年9月1日から、低熟練の外国人労働者向けの就労ビザの対象を、特定の国籍と職種に限定して拡大する計画を発表しました。この政策の背後には、特定の業界における人材不足への緊急対応があります。

新しい政策では、サービス分野における職種、例えばホテルの客室係など、および製造業の一部職種において外国人労働者の採用が認められることになります。これは、特にコロナ禍以降、業界全体で人材不足が顕著となっている場面に対する支援策として注目されています。

今回は、この記事を中心に、シンガポールの人材戦略について解説します。

外国人の就労パス 発給対象を一部拡大

   著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon 
公開日:2023年 10月20日

サービス業と製造業の9つの職種

人材省の発表では、インド料理レストランの調理師、ホテルの客室係、ホテルのポーターを含む9つの職種に限定して、これまで認められていなかった地域出身の労働者の労働ビザ(Working Permit、略してWP)の取得を認めます。

従来、これらの職種のWPの国籍は、原則として、マレーシア、香港、マカオ、台湾、韓国、中国本土に限定されていました。

今回の措置により、タイ、ミャンマー、バングラデシュ、インド、スリランカ、フィリピンの6カ国からの労働者もWPが認められることとなります。

厳格な規定

ただし、これらの9職種で働くことができる上記6カ国の新規承認国からのWPの取得者は、上限が全従業員の8%までに制限されており、月給については2,000シンガポールドル(約21.6万円)以上支払うことが義務付けられています。

また、WPに記載された職種(WPを申請し、取得した職種)以外の職種では従事できないと規定されています。

無制限に門戸は開かずに、ある程度厳しく管理するシステムになっています。

観光業の人材不足は切迫した課題

今年の1月から7月までの、観光でシンガポールへ訪問した人数は770万人に達しており、2022年の同時期の223万人を大幅に上回っています。

シンガポール政府観光局は、2023年の外国人訪問者数を1,200~1,400万人と予想しています。

コロナ禍前の2019年の1,910万人の3分の2程度まで回復しており、観光収入も180~210億円を見込んでいます。

最近では国際展示会や国際会議も再開して順調に回復しており、観光分野での人材不足が喫緊の課題になっています。

シンガポールホテル協会は客室係やポーターの採用に苦戦しており、国内の人材確保が困難な状況で、国の評判にとって重要なホスピタリティ産業であるホテルの運営に影響を与える可能性があると指摘し、ビザの規制緩和を要請していました。

シンガポールの人材戦略

以前この記事で紹介しましたが、シンガポールは今年の1月から「エリートビザ」と呼ばれる新たなビザを導入し、月収が3万シンガポールドル(約325万円)以上を条件に、通常より長い5年間の滞在を認め、さらに複数の企業で同時に勤務するのを認めています。

現在、世界中で高度人材の獲得競争が激化しています。

近隣でも、マレーシアやタイが既に高度人材や外国人富裕層向けの長期滞在ビザを発給しており、英国でもスタートしています。

コロナ禍で経済活動が落ち込み、自国の経済活動の復活に各国が注力する中で、経済発展に寄与できる高度な人材の獲得が急務になっています。

シンガポールは積極的に「低・中熟練の外国人労働者」を受け入れながら、経済発展を遂げてきました。現在、外国人が雇用者全体に占める割合が4割近くにのぼり、製造業では5割、建設業では7割強、メイドは実に10割を占めています。

また、全人口569万人のうち、外国人が占める割合も38%の216万人で、世界的にみても非常に高い水準にあります。

つまり低技能から高技能、そして富裕層まで、非常に幅広い層の外国人労働者を積極的に受け入れ、効果的に活用してきたのです。

難しい舵取り

ここまでは非常にうまく舵取りをして国を発展させてきましたが、国民の不満が膨らみ、選挙で与党の得票率は60%強まで落ち込んでいます。

この両極端な外国人材活用が、今後もうまく機能していくのでしょうか。

難しい舵取りが迫られ、正念場を迎えつつあるように感じます。

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