シンガポール経済の命脈、移民労働者の重要性とは?
シンガポールは、常にオープンで多様な社会を受け入れてきた。しかし、最近の移民規制強化により、懸念が広がっている。外国人労働者の流入は経済の要であり、人口減少の主因となっている。COVID-19による感染拡大と雇用ビザの厳格化が影響し、国内の雇用関係に影響を及ぼしている。ウォン副首相は規制強化の行き過ぎに警鐘を鳴らし、シンガポールの未来を懸念している。政府は国内雇用を保護しつつ、移民労働者の必要性を認識し、調和を図る必要がある。シンガポールは曲がり角に立ち、慎重な施策が求められている。
今回は、シンガポールの移民政策について解説します。
移民労働者がいないと「構造的衰退」と警告
著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon
公開日:2023年 9月22日
シンガポールで開催された会議で、ウォン副首相が、「シンガポールは、人口を増やすために移民を呼び込めなければ、構造的に衰退して、最終的には人口が減少し、労働力が減少し、衰退するだろう」と述べました。
移民労働者の流入が必要
シンガポールは、以前この記事でも紹介した通り、人口の高齢化と出生率の低下がともに進んでいます。
経済的に発展しているシンガポールですが、面積は東京23区よりやや大きい約720平方キロメートルに過ぎず、人口も約564万人しかいないため、労働需要を満たすには外国人労働者は欠かすことはできません。
そこで、副首相はさらに「持続的で、適切に調整された移民の労働者が流入することが必要である」と述べています。
移民国家
シンガポールはマレー半島の突端に位置し、西欧とアジアとの交易の絶好の中継点として歴史的に開かれた港湾都市であり、移民国家です。
リー首相もかつて「シンガポールは常に世界に対してオープンで、我々の社会に付加価値をもたらす外国人を歓迎してきた。この寛大な精神こそが、シンガポールの社会と経済に活力を与えている」と述べています。
さらに、「政府が外国の企業を積極的に誘致してきたのは、雇用の創出により、シンガポール国民に多くの機会を生み出しており、国民の生活を向上させてきた」と述べています。
移民規制が強化
しかし政府は、近年になって、シンガポール国民の雇用を保護し、かつ、経済成長が鈍化する中で移民人口が増加していくこととの間でバランスをとる必要が生まれたため、移民規制を強化し始めています。
「外国人に職を奪われている」との不満が国民の間で高まったため、政府は雇用ビザの発給の条件を厳格化し、2020年には2回引き上げており、今年の9月にはさらに条件を厳しくする予定です。
人口が初の2年連続減少
シンガポールは、2021年の6月末時点の人口が545万人で、前年同月比で4.1%の減少となり、2020年に続く2年連続の減少で、1965年のマレーシアからの独立以来初めてのことでした。
人口減少の理由は2つあります。
ひとつはコロナ禍で、防疫のために入国者を絞り、ビザの発給を制限したため多くの外国人労働者が渡航の延期を余儀なくされたからです。
コロナ禍の当初、建設現場で働く低賃金労働者の出身地である東南アジアでの感染者が急増、労働者の減少に拍車をかけました。
ふたつめは、先に述べた雇用ビザの申請条件の厳格化にあります。
行き過ぎた規制への懸念
ウォン副首相は、以前国会で「シンガポール人と外国人の雇用関係は、片方が利益を得たら、もう片方が損をするというようなゼロサムの関係ではない」と述べ「規制を厳しくすれば、香港やニューヨークなどに人材は流出するだけだ」と行き過ぎた規制への懸念を表していました。
曲がり角
シンガポールは、コロナ禍を乗り越え、経済成長率も回復の兆しが見え、雇用環境も改善し始めています。
政府は、国民感情に配慮をしつつも、止まらない人口減少に歯止めをかける対策を検討し、着実に実施していかねばならないでしょう。
移民国家シンガポールは、今、曲がり角を迎えていると言っても過言ではないでしょう。