「生き残りに移民が不可欠」 リー上級相 

シンガポール

シンガポールのリー・シェンロン上級相は、先日行われた国籍授与式典で「移民はシンガポールに極めて重要な何か特別なものをもたらし、社会を豊かにし、経済を活性化させる。移民は、シンガポールが生き残りのためには不可欠」と述べました。

同氏は、あらためて移民はシンガポール社会にとって大きな役割を果たしていることを強調しましたが、今回はシンガポールと移民について解説します。

「生き残りに移民が不可欠」 リー上級相  

   著者:シンガポールgramフェロー Malay Dragon 
公開日:2025年 7月9日

毎年2万人以上の移民

リー氏は、シンガポールでは毎年約3万人の国民の赤ちゃんが生まれ、約2万2000人の新しい国民が同国に受け入れられている事実を述べ、さらに強い流入は見られるが、慎重かつバランスの取れた状態に保たれていることを強調しました。

ヨーロッパなどでは移民政策が追いつかずに強い自国主義的な反発や外国人嫌悪が引き起こされ、最終的には社会の分断を深めているが、シンガポールは違うことに自信を見せました。

活気あるシンガポールに

リー氏はさらに「確かに、移民は競争を激化させ、我々にもっと一生懸命働き、より高い基準を満たすようプレッシャーをかけるでしょう。しかし、それはまた、より活気のある経済を創り出し、我々がより強く、より有能になるよう促し、我々の子供や孫たちにより良い機会とより明るい展望をもたらすでしょう。」と移民が社会を活性化させていることを述べたうえで、「シンガポールが閉鎖的になれば、チャンスは逃してしまうでしょう。私たちは遅れをとり、この地域の他の都市と同じようなものになり、私たちの子孫はより不幸になるでしょう。」と移民の重要性をあらためて強調しました。

移民が必要とされる理由

シンガポールが移民を必要とする主な理由は以下のとおりです。

①少子高齢化:シンガポールは出生率の低下と高齢化が進行しており、労働力人口の減少が懸念されています。これにより経済成長と社会福祉の維持が難しくなる可能性があります。

②経済成長の維持:多様な産業分野での労働力需要を満たすため、特に建設やサービス業などで外国人労働者の存在が不可欠となっています。 1990年に31万人だった外国人労働者数は、2000年に75万人、2010年に131万人に増加し、人口増加と経済成長に寄与しています。2017年時点でシンガポールの労働力人口の約4割を外国人労働者が占めていました。

③専門技能の導入:高度な専門知識や技術を持つ外国人労働者の受け入れは、国内の技術革新や競争力の強化に大きく寄与しています。

移民受け入れに関する課題

大量の移民受け入れは、社会的緊張や国民の不満を引き起こす可能性があります。

2024年9月にはローマ教皇フランシスコがシンガポールを訪問し、低賃金の外国人労働者の公正な賃金と尊厳の保護を呼びかけました。

解決可能な課題

移民は国民との対立を引き起こすなど「どの国にとってもセンシティブな問題だ」とリー氏は述べています。

その上で、政府は「受け入れる移民の数を慎重に管理している」と語り、異なる民族間および既存の国民との関係の調和に注意を払っていることを強調し、解決への自信を述べています。

シンガポールの成功は、国の規模や経済構造とも密接に関連していて、国土が狭いため移民の集中管理が容易で、国民も一部の反発はあるが、経済発展のため外国人労働者の必要性を理解しています。

このような要素が組み合わさることで、シンガポールでは移民政策が「成功しているように見える」のです。

ただし、社会的な緊張や不満はゼロではなく、今後も慎重な運営が求められる点は課題として残るでしょう。

Malay Dragon

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マレーシア・シンガポール在住のgramフェロー 経済上から時事ネタ、現地のマナーまで幅広く執筆。

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