季節は4つだけじゃない!?冬と春の間にある「第五の季節」

エストニア

春夏秋冬。日本と同じくエストニアにも四季がある。しかし一部地域では、四季に加えて「Fifth Season (第五の季節)」と呼ばれる特別な季節が、長く暗い冬と春の間にあると言われている。その一部地域というのは、エストニアの南東部のある国立公園。第五の季節とはどういったものなのか、そう呼ばれる所以とは、なぜこの地域でしか「第五の季節」はないのか。それらの秘密を紹介する。

季節は4つだけじゃない!?冬と春の間にある「第五の季節」

著者:エストニアgram fellow さえきあき
公開日:2023年4月16日

「第五の季節」の正体

第五の季節が見れるのはエストニア南東部地域。Pärnu(パルヌ)と Viljandi(ビリヤンディ)の間にある「Soomaa(ソーマ)国立公園」での、限られた時期の限られたタイミングで見れる光景が、第五の季節の正体である。その時期の光景が以下の通りだ。

エストニアの略図

一見よくある湖のようだが、平時の国立公園内にこのような湖はない。あるのは蛇行した川と歩道である。平時の光景は以下の通りだ。

ではなぜ、公園内に湖が突然できるのか。その理由は、洪水である。

冬の時期は大量の雪が降るエストニア。季節が春に移り変わりだんだんと気温が暖かくなって、雪は大量の雪解け水に変わる。その雪解け水が川に流れ込み、満たされ、川から溢れる。そして洪水状態になることにより、元あった歩道や植物が水の中に隠れて湖のように見えてしまうというロジックである。3月の後半から4月の初旬までという非常に限られた期間しか見ることができない。

つまり「第五の季節」とは、ソーマ国立公園の雪解け水が引き起こす洪水の時期を指すのだ。多量の雪解け水によって公園が水中に沈んだ幻想的な状態こそが「第五の季節」の正体である。

(参考元:SOOMAA.COM Fifth season is starting (UPDATED!) | Soomaa.com
https://soomaa.com/fifth-season-is-starting/

第五の季節が発生する地理的条件

エストニアにはソーマ国立公園のような自然公園が他にもある。植生の差はあれど見た目はどこも似ていて、大まかに湿原・歩道・樹木の3要素で構成されている。

写真はそれぞれソーマ国立公園とエストニア北部にあるラーヘマー国立公園の様子だが、どちらもかなり似ている。違いを言い当てることがほとんど不可能なくらいだ。

なぜ、同じような風景を持つ他の地域では「第五の季節」は観測できず、ソーマ国立公園だけでしか見られないのか。答えは、国立公園の周囲に川が多くあるという地理的な特性にあった。

洪水の起こるエリアは4つの大きな湿地から構成されており、それらの湿地を6つの川が隔てている。パルヌ川、ハリステ川、ナヴェスティ川、ラウドナ川、レムヨギ川、そしてコプ川。これらの川が一気に合流し、雪解けの時期に一時的な洪水が起きるのだ。

(参考:European Wilderness Network https://european-wilderness.network/listing/soomaa-wilderness/

観光産業への影響

ソーマ国立公園には年間45000人の人が訪れ、そのうちの90%が国内旅行者、残りのわずか10%が外国からの訪問者だ。訪問者の何割がこの第五の季節に訪れているのかは明記されていない。

エストニアの国全体の訪問者数は年間約300万人で、ソーマ国立公園の集客率はあまり振るっていない。その要因の一つにアクセスの悪さが挙げられる。国内の主要都市はバスや電車でつながれているが、美しい自然が保護されている地域はたいていアクセスが悪い位置にある。ローカルバスを使おうにも1時間に1、2本あるかどうかといった具合で、車で向かうことやガイドを個人的に手配することが前提になる。

このアクセスに関する問題は他の国内の自然観光資源にも同様に言えることで、観光業を盛り上げるためにはクリアしなければいけない課題である。

(引用:A Ramsar Case Study on Tourism and Wetlands Estonia_Soomaa_EN-.pdf (ramsar.org)
https://www.ramsar.org/sites/default/files/documents/pdf/case_studies_tourism/Estonia/Estonia_Soomaa_EN-.pdf

まとめ

特徴的な地理条件とエストニアの気候が組み合わさったことで生まれる第五の季節。冬は暗く、寒く、そして長いエストニア。そこで春を待ち遠しく思う気持ちが生んだ言葉なのだろうか。期間は短く、観測できる場所も限定されてはいるがエストニアらしさがこれでもかと詰まった場所であり、訪れる価値は十分ある。ぜひ、エストニアの不思議な季節、「第五の季節」を体験してみてください。

エストニアの位置関係

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