経済的な負担だけが理由ではない?-少子化に歯止めをかける策を探る②
少子化が進む理由のひとつに、経済的負担が挙げられます。経済的な問題が、少子化に大きな影響を与えていることも確かに考えられますが、本当にそれだけが原因なのでしょうか。イタリアには、経済状況や婚姻形式にとらわれずに子どもを産み育てられる環境があると、筆者は感じています。本記事では、イタリア在住10年以上の筆者が肌で感じる現実をお伝えします。
経済的な負担だけが理由ではない?-少子化に歯止めをかける策を探る②
著者:イタリアgram fellow Nakamura Hiromi
公開日:2023年6月11日
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無料で出産できるイタリア
イタリアでは、公立の医療機関で出産をした場合、分娩(帝王切開を含む)及び入院費用はすべて無料です。これらはすべて国民健康保険でまかなわれています。
国民健康保険サービスは、移民や難民を含むイタリアに長期滞在する外国人も加入することができ、イタリア人と同等の医療サービスを受けることができます。
ちなみに、プライベートの医療機関では自己負担となり、出産費用はおよそ3000ユーロ(約45万円)です。
筆者はイタリアの公立病院で3回の出産を経験していますが、出産・入院に関しての自己負担は0円でした。公立病院で出産すれば、前もって高額の出産費用を捻出する必要はなく、経済的な不安は少ないでしょう。
(参考出典:在イタリア日本国大使館 https://www.it.emb-japan.go.jp/itpr_ja/11_000001_00593.html)
日本での出産にかかる費用は?
2020年度の平均出産費用は45万円、2012年の40万円と比べ、5万円も増加しています。また、地域によるばらつきも大きく、最高で20万円もの差があります。
健康保険や国民健康保険に加入していれば、出産育児一時金が支給されます。1994年に30万円の支給から始まり、2023年4月以降の出産については50万円まで引き上げられました。
直接支払制度を利用すれば、出産育児一時金を出産費用に充てることもできます。ただし、直接支払制度に対応していない医療機関もあるため、注意が必要です。
(参考出典:厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000977521.pdf)
(参考出典:全国健康保険協会 https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3280/r145/)
結婚にこだわらない子育て
出産費用だけを見れば、日本とイタリアとでそれほど大きな差はなく、どちらも国民健康保険によってカバーされているため、公的な医療機関を利用すれば実質無料です。やはり、少子化が加速する背景には、経済的な問題だけではない、さまざまな事情があるのではないでしょうか。
「結婚」を例に挙げた時、イタリアと日本では大きな違いがあると筆者は感じています。
日本では子どもを持つ前提として、結婚しているかどうかを重要視する傾向にあります。結婚をしてから子どもを持つ、あるいは子どもができたから結婚をするというのが常識のように考えられていますが、世界を見てみると、実は婚外子の数はとても多いのです。
2021年を例に挙げると、日本での婚外子の数はおよそ18000人で割合は2.3%、イタリアではおよそ160000人、その割合は39.93%にもなります。もちろん人口総数や出生総数に違いがありますが、全体における婚外子の割合だけを見るとその差は明らかです。
実際に筆者の周りでも、両親が結婚をしていない家庭はとても多く、ほとんどが事実婚を選択しています。イタリア人にとって、子どもを持つために結婚をすることは当たり前ではないのです。養子を受け入れている家庭も多く、同性カップルで子育てをしている人もいます。
このようにイタリア人は、結婚にこだわらないそれぞれのライフスタイルに合わせた家族の形を実践しているように感じています。
(参考出典:e-Stat https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003411618)
(参考出典:ISTAT http://dati.istat.it/Index.aspx?QueryId=19051)
まとめ
今回はイタリアと日本の出産費用と結婚観に注目してみました。出産費用に大差はなく、両国ともに保険適用で実質無料となることが見てとれます。
それでも出生率が低迷している背景には、妊娠・出産によってキャリアを諦めなければならない状況や、共働きや核家族化が進むことによるワンオペ育児など、産むことよりも産んだ後への不安があるのでしょう。また、子どもを産むために結婚をしなければならない現実に、悩んでいる人もいるかもしれません。
経済的支援や事実婚の拡大が少子化に歯止めをかけるとは考えにくいですが、経済状況や社会的地位に関係なく、すべての女性が安心して子育てできる世の中になることを願ってやみません。
※1ユーロ150円で計算