海外勤務にペットを連れていきたい|EUペットパスポート取得の鍵
前記事でペット(犬)を伴って日本からEU圏へ入国する方法を、主に日本出国前の手続きを中心に紹介した。本記事ではスペイン入国後に焦点を当て、認識しておくべきペットに関するルールや「EUペットパスポート」について、また今後ペットを伴って日本へ一時帰国や本帰国をする時にしておくべきことなどをお伝えする。
海外勤務にペットを連れていきたい|EUペットパスポート取得の鍵
著者:スペインgramフェロー 北田ミヤ
公開日:2024年5月13日
EUペットパスポートについて
EUペットパスポートはEU諸国で共通の規格に従って作成されていて、飼い主が携行することでペットがEU内を自由に移動できる、いわばEU限定のパスポートのペットバージョンである。表紙は青で、大きさは100×150mm。ヨーロッパの紋章である星の輪、「欧州連合」の文字に加えて発行国の名前が表示されていて、中身は英語と発行国の公用語で書かれている。
パスポートにはペットの名前、生年月日、受けた予防接種の種類や有効期限、抗体検査の結果などの情報が獣医師によって記入されるため、飼い主としてもこれまでの通院履歴やワクチン履歴などが一目でわかり大変便利である。
4ヶ月以上の滞在を予定している場合はEUペットパスポートが必要( 欧州委員会実施規則(EU)第577/2018 )だが、現時点で必要な動物は犬・猫・フェレットで、鳥やウサギには必要無い。
(参考:EU rules on travelling with pets and other animals in the EU – Your Europe
https://europa.eu/youreurope/citizens/travel/carry/animal-plant/index_en.htm)
EUペットパスポート取得方法
EUペットパスポートの作成は動物病院でお願いできる。費用は約10ユーロ前後だが、獣医により金額は異なる。
必要書類に関しては、海外から動物を連れてきた場合、出国の時に作成した輸出検疫証明書を動物病院に持参すればよい。前記事でお伝えした通り、筆者の場合はフランスでもスペインでも入国する際に空港で輸出検疫証明書を提出する機会がなく手元に書類が残っていて、その書類をそのまま動物病院へ持参する形となったが、空港で書類を提出することを考え、保管用として出国の際に輸出検疫証明書の原本のコピーを用意しておくのがよいかもしれない。
ペット(犬)に関するルール|スペイン
2023年9月に施行されたスペインの新しい動物福祉法の重要なポイントは以下の通り。
●犬のための第三者賠償責任保険
犬の飼い主は、ペットのために第三者賠償責任保険に加入することが義務付けられている。この措置は、犬が関与する事故が発生した場合に他の人を保護することを目的としている。
●猫の不妊手術
猫は、繁殖動物として正式に登録されていない限り生後6ヶ月までに不妊手術をしなければならない。
●バルコニーとテラスの禁止
ペットをバルコニーやテラスで恒久的に飼うことは禁止されている。
●マイクロチップ装着
ペットにはマイクロチップの装着が義務付けられている。
●禁止事項
ペットを3日以上監視なしで放置すること(犬は24時間以内)は禁止。
犬や猫を不適切な場所(屋外、保管室、地下室、車など)で定期的に飼うことを禁じている。
●ペナルティ
違反に対する罰金は違反の重大性に応じて、500ユーロ〜200,000ユーロの範囲。
これらの規制は動物の福祉と保護を保証し、放棄された動物の数を減らすことを目的としている。
(参考元:EXPLAINER: Spain’s new animal welfare laws come into force in September – Olive Press News Spain
https://www.theolivepress.es/spain-news/2023/08/12/explainer-spains-new-animal-welfare-laws-come-into-force-in-september/)
(参考元:New Animal Welfare Law enters into force in Spain – Go-to resource for the global pet industry | GlobalPETS
https://globalpetindustry.com/article/new-animal-welfare-law-enters-force-spain)
犬同伴で日本へ一時帰国/本帰国するためにしておくべきこと
ペットと共にEU諸国に無事入国し、生活も落ち着いてきたら考えておきたいのがペットと日本へ一時帰国、あるいは本帰国をする際に準備しておくべき手続きだ。
中でもとても重要なのが、日本からEU諸国へ入国する際には免除となっている狂犬病の抗体検査である。
そもそもなぜ抗体検査が免除されているのかというと、日本では狂犬病は非常に稀であるからだ。1957年以降、1970年に1例、2006年に2例が報告された後、2020年に14年ぶりとなる狂犬病患者が確認されたものの、現在日本国内では狂犬病の発生は無く、清浄国のひとつとなっている。
反対に海外からの狂犬病の侵入を防ぎ、狂犬病ゼロ状態を保持するため、日本へ入国する際には厳格な輸入検疫を通過しなければならない。入国に必要な手続きが確認できない場合は180日間の係留となるので、それを避けるためにも飼い主はひとつのミスもないよう早めに準備をする必要がある。
●狂犬病抗体検査
狂犬病に対する抗体価の測定は、農林水産大臣の指定する検査施設で行わなければならない。
2回目の狂犬病予防注射の後に採血し、抗体価を測定する。抗体価は0.5IU/ml以上である必要がある。
スペインの場合、指定抗体検査施設はバレンシア微生物研究所(Instituto Valenciano de Microbiologia)の1ヶ所のみ。
かかりつけの動物病院に確認したところ、病院で採血後に獣医が直接該当の施設へ検査依頼するということなので、飼い主が直接この検査施設へ出向く必要はない。
検査結果は約1ヶ月程で届く。
指定検査施設一覧は以下の農林水産省のHPに記載されている。
https://www.maff.go.jp/aqs/animal/dog/lab.html)
●輸出前待機
狂犬病抗体検査の採血日を0日目として、日本到着まで180日以上待機しなければならない。
●事前届出
到着予定の空海港を管轄する動物検疫所に、日本到着する40日前までに事前届出を行わなければならない。
(参照元:Frontiers | Tackling the Threat of Rabies Reintroduction in Europe
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fvets.2020.613712/full)
(参照元:国立感染症研究所 :日本国内で2020年に発生した狂犬病患者の報告
https://www.niid.go.jp/niid/ja/rabies-m/rabies-iasrd/10301-494d01.html)
(参照元:犬猫検疫制度について | 在バルセロナ日本国総領事館
https://www.barcelona.es.emb-japan.go.jp/itpr_ja/inuneko.html)
(参照元:動物検疫所ホームページ :犬、猫を輸入するには:動物検疫所
https://www.maff.go.jp/aqs/animal/dog/import-index.html)
まとめ
EU諸国ではペットの犬や猫と気軽に旅行ができるよう、2004年から「EUペットパスポート」の発行がスタートし、EU内で有効なペット用の旅券としてペットの健康と安全をサポートしている。このパスポートはペットの寿命を考えると今後ますます重要になるだろう。
多くの国が陸続きになっており、異国間の移動が日常茶飯事であるヨーロッパだからこそ実現したシステムかもしれない。現実的に難しい事は承知の上で、筆者としてはEU諸国のみならず、人間同様に世界共通のペットパスポートが発行され、ペットと共にもっと気軽に他国間を移動できる日が来ることに期待が膨らむ。