対露ビジネス関与で危ぶまれる首相の進退
今、エストニア国内で話題になっているのが、8月23日に突如報じられたエストニアの女性首相カヤ・カラスの夫に関するニュースだ。内容は、首相の夫の事業がロシア向けビジネスで富を得ているというものだ。ロシアのウクライナ侵攻に対して強く反対の姿勢を貫いていた首相であるだけに、ニュースは国民に衝撃を与え、辞任を求める声が出てきている。日本では報道されないエストニア国内の反応をレポートする。
対露ビジネス関与で危ぶまれる首相の進退
著者:エストニアgram fellow さえきあき
公開日:2023年9月28日
事の詳細
現エストニア首相、カヤ・カラス(Kaja Kallas)の夫、アルヴォ・ハリックが共同経営する運送会社スターク・ロジスティクスが、ウクライナでの全面戦争勃発後もロシアへの貨物輸送を続けていたというニュースが8月23日に突如として報道された。スターク・ロジスティクスは、ロシアのエアゾール缶メーカー向けに金属部品を輸送していた。エストニアの新聞『Eesti Päevaleht』は、スターク・ロジスティクスが開戦以来、2900万ユーロ相当の商品をロシアに運び、このビジネスで160万ユーロの利益を上げていると報じた。
首相のカヤ・カラス。夫個人の問題であり夫婦とはいえ彼女は無関係だと思いたいが、そうはいかない。彼女は夫の会社に37万ユーロを融資していたため、夫の事業に直接的な関わりがあったと言えるのだ。
大きな話題となっている理由
ここまで大きな話題となっているのには理由がある。エストニアはロシアがウクライナ侵攻を始めてから、軍事費の予算を拡張してウクライナ支援を行ってきたからだ。支援の金額だけ見るとそこまで大きな額面ではないが、軍事予算全体におけるパーセンテージを見ると他の国よりも大きいことがわかる。昨年は、劇的なインフレーションで物価上昇した。
このような状況のなか国の方針とし、また過去の経験からロシアに対しては強硬な姿勢を取っていた国なだけに、今回の問題が大きく取り上げられているのだ。ビジネスとしては成功をしているが果たしてそれは倫理的には正しいことなのか、国の意見をまとめる立場にある首相が、自ら示している方針とは全く反対の行動を取っているというのは、どういうことだと国民から声が挙がっている。
この問題について首相は「夫とビジネスについて家で話したことがない」、すなわち無関与だとコメントしている。
国民の反応
Pollster Norstatが8月28日から29日にかけて18歳以上の市民1,000人を対象にオンライン調査を行い、問題に対する国民の反応を引き出した。
調査によると、「首相は辞任すべきか」という問いに対し国民の約67%が「辞任すべき」もしくは「どちらかというと辞任すべき」だと回答をしたとの発表があった。
また、首相の夫にまつわる問題に関連して、さらに3つの質問が行われた。その結果は、回答者の80%はエストニアの企業がロシアでビジネスをするのは道徳に反すると考え、67%は首相が夫のロシアでの事業活動を知らなかったとは考えず、69%は首相が夫の会社に融資した内容を公表すべきだと考えたそうだ。
まとめ
ウクライナ侵攻に対する反対姿勢とは矛盾した行動が明るみになり、政権の行方が危ぶまれている首相カヤ・カラス。利益が見込める場所に融資・投資するというのはビジネスの基本ではあるが、今回の問題の是非はその倫理観である。
政府の指導者は国の方針と一貫性を持つことが期待されるため、本人でなくその家族が主導してやっていることだとしても、今回の問題が国際的に影響を与え、国としての信頼に揺らぎが生じる可能性がある。現時点(9月4日)では辞任発表はされていないが、国民の不信感が募ってきている最中、今後の動向を注視する必要がある。
参考
◇estonian world:
https://estonianworld.com/security/poll-66-per-cent-of-estonian-citizens-say-pm-kaja-kallas-should-resign/