世界が注目した「ASEAN首脳会議」

2025年5月26日から27日にかけて、クアラルンプールにて第46回ASEAN首脳会議が開催されました。
今回はASEAN加盟の10ヶ国に加え、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)などのアラブ諸国、中国も参加し、前例のない国際色の広がりを見せました。特に、ASEAN・アラブ諸国と中国の三者による首脳級の対話は史上初で、経済・外交両面で世界が注目する会合となりました。

世界が注目した「ASEAN首脳会議」
著者:マレーシアgramフェロー Malay Dragon
公開日:2025年7月27日
「トランプ関税」とASEANの結束

今回の首脳会議の大きな焦点のひとつは、米国によるトランプ関税への対応でした。
トランプ大統領が発表したこの政策は、ASEAN諸国のうち6ヶ国に最大49%の高い関税が課される可能性があり、地域経済に深刻な影響を及ぼすと懸念されていました。
ASEAN各国は、米国との個別交渉の際にもASEANの他の加盟国に不利益を与えないように配慮する方針を確認し、地域としての結束を強めました。
議長国マレーシアのアンワル首相は、トランプ大統領との直接会談を要請するなど積極的な外交姿勢を示し、存在感を示しました。
三者首脳会談
ASEAN、中国、アラブ諸国の三者首脳会談では、自由貿易協定(FTA)交渉の開始が合意され、経済連携の強化に向けた歴史的な一歩が踏み出されました。
中国の李強首相は、貿易障壁の撤廃、インフラ開発、デジタル経済、エネルギー協力など多方面での連携を提案しました。アラブ諸国側もこれに前向きな姿勢を示し、米国の保護主義に依存しない新たな多国間での経済圏の構築を提案しました。
ミャンマー問題
ミャンマー情勢への対応も今回の会議の重要なテーマでした。
2021年の軍事クーデター以降内戦状態が続くミャンマーについて、ASEANは包括的な対話と全国的な停戦の実現を呼びかけました。
アンワル首相は水面下でミャンマー軍と国民統一政府(NUG)の双方と非公式に接触しており、マレーシアが”調停役”として存在感を示す様子もうかがえました。
「クアラルンプール宣言」採択
首脳会議の最終日には、「ASEAN2045:我々の共有する未来」と題されたクアラルンプール宣言が採択されました。これは今後20年間にわたるASEAN地域のビジョンを定めたもので、貿易・投資の自由化、人的移動の円滑化、気候変動への対応、経済の持続可能性などが柱となっています。短期的な課題への対処だけでなく、長期的な視野を持つASEANの姿勢を明確に打ち出しました。
議長国マレーシアの存在感と外交手腕
今回の会議を主導したマレーシアは、議長国としてASEAN内外の利害の調整を巧みに行って、その外交的な存在感を強く示しました。
アンワル首相は、ASEANにおける橋渡し役として、中東・中国・欧米との対話をバランスよく進め、会議全体の方向性を導くことに成功しました。これは、ASEANが単なる地域連携を超えて、戦略的な役割を進化させつつあることを象徴しています。
ASEANが“主役”へ
今回のASEAN首脳会議は、地域の課題に対する積極的なアプローチ、グローバルな連携の拡大、地政学的なバランスの再構築という点で、画期的な意義をもつものでした。
ASEANは現在、米中関係の緊張が続く中で、受動的な立場ではなく、“主役”としての役割を強調し、国際社会において新たな連携を主導して構築する挑戦を始めました。
マレーシアという小国が大きな役割を担っていることも、今後の国際秩序の構築において注目すべき点でしょう。