中国の今夏トレンド「氷カップ」が大人気の理由と今後の課題とは

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中国では体を冷やすことは良くないとされる。真夏でも常温や温かい飲み物で水分補給したり、子どもには靴下や長ズボンを履かせたりと、日本と比べ日頃から冷えに敏感だ。そんな中国で今年の夏ヒットしているのが、使い捨てプラスチックカップに氷が入った商品だ。なぜ冷えを嫌う中国で氷カップが大人気となっているのか。本記事ではその理由と今後見えてくる課題について紹介する。

中国の今夏トレンド「氷カップ」が大人気の理由と今後の課題とは

   著者:上海gramフェロー 米久 熊代
公開日:2024年10月8日

中国の生ビールはぬるい?体を冷えから守る文化

(写真:上海市にあるローソンにて撮影)

冒頭で紹介した通り、中国では体を冷やす行為を避ける人が多い。

中国人の友人が夏の暑い日に我が家へ遊びに来てくれたとき、氷入りのお茶を出すと大変驚かれた。彼女の家では氷をストックする習慣もなければ、夏でも氷を入れて飲み物を飲むこともないという。彼女からすると氷入りの飲み物を提供してもらうことはあまりにも珍しかったようだ。彼女は日本人からすると何の変哲もない氷入りの麦茶の写真を撮影し、自分のSNSに投稿していた。

体を冷えから守る習慣は自宅だけでなく飲食店でも同様で、文化の違いを感じることがある。例えば、真夏でもお冷やお茶は常温かホットで提供される。また、夏のビールといえば日本人なら誰しもキンキンに冷えたものを想像すると思うが、中国の飲食店でビールを注文すると、ぬるい状態で提供されることが多い。筆者はビールを注文するとき「冷たいビール」と必ず店員に伝えるようにしている。

そんな中国で今年の夏、意外にも大人気となっているのが「氷カップ」である。コンビニはもちろん、中国のアリババが展開している食品スーパーの盒馬鮮生(フーマ)やドリンクチェーン店など各社競争が勃発しているのだ。

現在の中国で勢いのあるティードリンク店とは

(出典:盒馬鮮生のコーヒー味の氷カップ)

氷カップの便利さやSNS映えすることから、中国のSNSでは氷カップを用いたオリジナルドリンクの投稿がここ最近増加している。

ある報告によると、一年で最も暑いとされる二十四節気の「大暑」の7月22日前後には、カップ氷の販売量が前年同期の4.5倍となり、アルコール飲料やソフトドリンクと合わせた販売量も4倍に伸びたという。

(引用元:新華社 https://jp.news.cn/20240817/3577a556c478430fbaa6abbd165e92eb/c.html

氷カップは中国語で「冰杯」という。水で作ったロックアイスが入ったもの、またはコーヒーやぶどうなどの味付き氷が入ったフレーバーアイスカップの2種類があり、どちらも使い捨てカップを使用している。フレーバータイプの商品の方が少し高い。

氷カップがあれば飲み物を注ぐだけで、すぐに冷たいドリンクを飲むことができる。ローソンやファミリーマート、セブンイレブンなどコンビニやスーパー、ネットなどさまざまな場所で手軽に購入することが可能だ。

コンビニやスーパー盒馬鮮生では160gで3.5元(約70円)、中国のミネラルウォーターメーカー农夫山泉は4元(約80円)と同じような価格で販売していた。しかし、氷カップの人気を受け、他社もマーケットに参入し価格競争となっている。日本にも上陸した中国の最大手で格安ティードリンクチェーンの蜜雪冰城は、氷カップ1つ1元(約20円)と格安で販売を開始した。

中国でコーラはおよそ3元(約60円)で購入できるのに対し、コンビニやスーパーで氷カップを購入するとなると少なくとも3.5元(約70円)は必要だ。飲み物よりも氷が高くつくことから氷カップに魅力をあまり感じない消費者も一定数いた。しかし、蜜雪冰城がたった1元の氷カップを販売したのはSNSで大きな話題となっている。

中国でなぜ氷カップが人気となっているのか?

(写真:蜜雪冰城の1元氷カップ)

氷カップを購入する消費者は若者が主だという。昔なら夏でも常温か温かい飲み物を好んで飲んでいた中国人だが、現在の若者の価値観や生活スタイルが変化したことが、氷カップが注目されるようになった大きな理由のひとつとして考えられる。

デリバリー大手の美団などが冷たいデザートや飲み物の消費傾向について調べた2023年のリポートによると、40%を超える消費者がアルコール飲料やソフトドリンク、乳製品を冷やした状態で消費しており、冷たいデザートや飲み物の消費額と消費頻度も19年比で10~15%増加している。消費習慣の変化により冷たい飲食物はいつでもどこでも消費されるようになり、おやつなどに欠かせない必需品となっている。

(引用元:新華社 https://jp.news.cn/20240817/3577a556c478430fbaa6abbd165e92eb/c.html

(出典:小紅本)

また、自分好みのドリンクを氷カップを使って手軽に作る楽しさや映える写真を投稿できるなど、SNSによる影響も大きい。オリジナルドリンクのレシピ投稿を見た若者が次々と真似をすることから、瞬く間に拡散し、知らず知らずのうちに大きな宣伝効果となっているのだ。

中国では自分自身で作る「DIYドリンク」の人気が数年前から続いている。オリジナルカクテルやオリジナルジュース等のトレンドに、使い勝手が良くSNS映えもする氷カップは上手くハマったといえるだろう。こうした背景から氷カップは今年の夏、中国で大人気となったのだ。

コスパが良いのは店か自作ドリンクか

(写真:上海市にあるファミリーマートにて撮影)

DIYドリンクの良い所は、自分好みにカスタマイズできる、写真映えすることなどが挙げられる。しかし、様々なドリンクを組み合わせ、さらに氷カップを購入するとなるとドリンク店で売られている商品と似たような価格またはそれより高くなる場合もある。

今のところ、7月3日より全店舗で販売を開始した蜜雪冰城の1元氷カップが最安値となるが、需要が集中したため一部店舗では取り扱いを一時的に中止、または中止する措置がとられている。筆者の住む地域ではデリバリーでは購入ができず、実店舗でのみ購入が可能。いくら安くても使いたい時すぐ手に入らないのは不便なので、他社に流れる消費者も少なからずいる。氷カップをよく購入する友人は、値段は少し高いが、自身が勤めるオフィスビルに併設するコンビニの氷カップを購入することが多いと話していた。

今後さまざまな企業がどのように消費者へアプローチをするのか注目が集まる。また、「氷カップ」関連の投稿がSNSで増加していることから、飲料メーカーなど関連企業はハッシュタグなど駆使した宣伝を有効的に実施することでトレンド入りする可能性も十分にあるだろう。

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