コスパ重視の中国で割高な日本料理が人気の理由とは

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中国における日本料理店の店舗数は年々増加傾向にある。日本の大手寿司チェーンやラーメンなど、日本料理は中国企業の飲食店と比較すると高価にもかかわらず人気がある。

筆者の周りの中国人は皆、口を揃えて景気が悪い、お金を使いたくないと言っているわりに、刺身や寿司などの高級な日本料理を食べてSNSに投稿しているし、中国国内で日本料理屋が続々と出店している。本記事では中国における日本料理の反応について、理性消費傾向にある中国でなぜ割高な日本料理が人気なのか、中国の若者の消費動向について解説する。

コスパ重視の中国で割高な日本料理が人気の理由とは

   著者:上海gramフェロー 米久 熊代
公開日:2024年11月11日

中国で浸透する日本料理(現状について)

(写真:バーモンドカレーと中国料理。中国の友人家族の晩御飯。)

日常生活の中でも日本食を食べている中国人は増えており、中国の友人家族は日本のカレーを月1回ほどの頻度で食べているほど日本食が浸透している。

中国のSNSでは、日本料理と店内の写真と共に「ここは日本ではない!〇〇(上海などの地名)です!」という言葉を添えた投稿をここ最近よく見かけるようになった。まるで日本旅行をしているような雰囲気とクオリティの高い日本料理を中国で味わえるようになってきている。

筆者が住む上海市ではさまざまな多国籍料理店が立ち並んでいるが、その中でも日本料理店は群を抜いて多いと感じる。

中国のグルメサイト「大衆点評」によると、全国の日本食レストランは、2013年の約1万店から、2021年には8万店にまで増加。中国メディア『新京報』の2022年末の記事によると、中国の日本料理の市場規模は約900億元(約1兆7000億円)に上る。

(引用元:Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/42baaac2f3e4dd0ea2a1888be2bf8a2a1988eb45

日本風居酒屋やラーメン、すき焼き、天丼、そば、串カツなどから接待で利用するような高級日本料理屋まで、幅広い日本食が人気となっている。

上海市にある高級寿司屋は、中国人が店長を務める人気店。特に大きな宣伝はしていないが口コミで広がり、夜は接待の客でいつも賑わっている。価格は平均して1人当たり2000元(約4万円)、昼は500元(約1万円)からのコース料理のみ取り扱っており、夜に利用した客が昼のリピーターになるそうだ。

一皿10元(約200円)で寿司が食べられる日本の回転すしチェーンは、昼時は2時間待ちになる店もある。また、上海市にある有名なつけ麺屋は、平日にも関わらずランチの時間帯の席のほとんどが予約席で埋まり、10名ほどの団体客も入るほど大盛況。これらの店はいずれも中国料理と比較すると単価が高い。

安くて美味しい中国料理はいくらでもあるのにもかかわらず、なぜコスパを重視する傾向にある現在の中国で日本料理が人気となっているのか。理由は中国人のお金の使い方と昨今のブームが関係している。

「飲食の質は下げたくない」中国の若者の消費動向

(写真:上海で人気のつけ麺店にて撮影。平日の12時には満席)

雑誌「中国新聞週刊」が22日に発表した「2024興味深いライフスタイル報告」(以下、「報告」)のデータは、中国の若者が何にお金を使っているかに迫っている。報告の調査では、中国の規模の異なる都市の16歳から40歳までの男女7725人から有効回答を得た。
購入を決める際に考慮する要素として、回答者の46.7%が「割引は魅力的」と答え、最も多かった。次に、生活の質を高めることを求めており、少々高くても、質を下げたくない日常の消費について、回答者の73.5%が「飲食」を選んでいた。続いて多かったのは36.1%の「旅行」で、「旅行の時くらいお金を気にしたくない」と答えていた。精神的な満足感を得ることを重視しており、支出が増えても気にしない消費の項目を見ると、「旅行」(36.5%)と「学習」(23.1%)の割合が、服(16.2%)や美容(13.7%)の割合を大きく上回っていた。今年支出が増えた分野の調査を見ると、食品/飲料がトップで37.1%だった。

(引用元:人民網  http://j.people.com.cn/n3/2024/0826/c94476-20210528.html

現在の中国は節約志向の傾向にあり、コスパを重視する人が増えている。しかし飲食に関しては質を落としたくないと考える若者が多く、口にするものに関してはお金を使うが、その分他で支出を抑えたいという考えのようだ。

今年に入ってから周りの中国の友人たちは日本へ個人旅行や社員旅行、出張がてら観光する人が非常に増えたように感じるが、去年までは福島の処理水問題など日中関係の悪化により日本への旅行を控えている人が多かった。日本へ旅行したくても出来ないため国内での日本料理の需要が増し、店が増えているという見解の記事もある。
ただ、日本料理ブームが起きている理由はこれだけではない。

日本料理ブームの理由は健康志向とおひとりさま需要

(写真出典元:小紅本)

コスパが良いのは店か自作ドリンクか

少々高くても質を下げたくない日常の消費について、回答者の73.5%が「飲食の面では、まずヘルシーなことが絶対の条件」との見方を示していた。

(引用元:人民網  http://j.people.com.cn/n3/2024/0826/c94476-20210528.html

近年の健康志向ブームの影響は勿論もちろん、中国では古くから薬などの化学物質で健康を維持するのではなく、体の中から直す食で補うという考え方を基本としており、食と養生の繋がりを非常に大切にしている。中国の若者を対象にした消費動向に関する調査では、健康食品・健康飲料が消費カテゴリーの上位にランクインするなど、年齢層を問わず食養生の考え方が浸透しているといえるだろう。

筆者が上海市にある人気のつけ麺店に訪問した際、隣の中国人カップルはつけ麺を1つだけ注文し、他は刺身や枝豆などヘルシーな日本料理を単品でいくつもオーダーしていた。日本人の感覚だと、つけ麺屋に来て人数分のラーメンを注文しないという選択肢はありえないが、中国ではよく見かける光景である。一見健康とはいい難い料理でも、中国料理と比較すると使われる油の量が少なく、他の料理と自分好みに組み合わせて食べることができる日本料理はヘルシーで魅力的なようだ。

最近の中国ではおひとりさまご飯需要が増しており、これも日本料理が人気になっている理由のひとつだと考える。

今年上半期(1-6月)には、多くの大手飲食品ブランドの間で「ひとりごはん」が事業展開の重点分野となり、しゃぶしゃぶの「呷哺呷哺」は1人用セットの価格引き下げ、「ケンタッキーフライドチキン」は9.9元(1元は約20.3円)のバーガー発売、「ピザハット」は1食10-30元で食べられる「Pizza Hut Wow楽享店」オープンなどで、ひとり客を呼び込むことに成功した。

(引用元:人民網  http://j.people.com.cn/n3/2024/0826/c94476-20210591.html

火鍋や北京ダックなどの中国料理だけでなく、焼き肉や定食、寿司などの日本料理もおひとり様セットを出している店が増えている。

まとめ

(写真:中国で人気の高級寿司屋にて撮影。大将は日本の寿司屋で働いたのち中国で独立)

飲食に関しての出費は抑えたくない、体にとって健康な物を口にしたい、ひとりごはんを選択する人が増えている、以上3つのニーズが合致したことが中国の日本料理ブームを後押ししている理由といえるだろう。

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