お風呂よりトイレが広い方がリラックスできる!ドイツのお風呂事情

お風呂事情

結論からいうと、ドイツ人は入浴を日本人ほど重要なものと捉えていない。
ではなぜ、さほど重要視されていないのか?
その背景には入浴に対する考え、風土といった様々な違いがあった。

今回はドイツ人がお風呂に求めること、日本人から見たら少し意外なドイツ人のお風呂愛などに焦点を当ててみようと思う。

海外のお風呂事情:ドイツ編

著者:ドイツgram fellow 千葉 よう
公開日:2023年2月15日

ドイツの一般的な浴室とは?

在独日本人に「日本の恋しいものは?」と聞くと、必ずと言っていいくらい『食事とお風呂が恋しい!』と返ってくる。
日本に住んでいた頃は毎日のように湯船に浸かっていた筆者も、もう数年は湯船に浸かっていない。
ちなみにこちらが我が家の浴室だが、古い都市部の住宅ともあってシャワーボックスのみの簡素な浴室だ。

うちのお風呂場

一般的にドイツの家、特に都市部の住居には浴槽付き物件が少なく、浴室は日本と比べると広めではあるが、トイレとシャワーのみという形が多いようだ。

ドイツ衛生産業協会(Die Vereinigung Deutsche Sanitärwirtschaft-VDS-)が18歳以上約6200万人のドイツ人を対象とし、そのうち約3000人にインタビューをした所、92%は浴室にトイレが付属しており、11%が浴室とトイレがそれぞれ独立しているという結果であった。
(引用:VDS https://www.sanitaerwirtschaft.de/markt-branche/die-deutschen-und-ihre-baeder

限られた空間に浴槽を置くより、トイレを広く「リラックス空間」として使いたいのだという。
訪れたお宅の浴室兼トイレがとても広く開放的で、狭いトイレに慣れていて全く落ち着かない経験をした筆者とは、浴室やトイレに求めているものが異なるようだ。
都心部の住居は浴槽の無いシャワーとトイレのみの控えめな浴室が多く、都心部から離れるほど開放的な浴室に独立したシャワー、トイレ、そして浴槽がある場合が多い。

ドイツ都市部に多いシャワーとトイレのみの浴室は大体このくらいの規模が多い。

こちらの投稿主はスイスからだが、ドイツ都市部に稀にある、浴槽が付いている浴室と作りがよく似ている。

だが、数少ない浴槽付きであってもシャワーのみを使用し、浴槽自体は荷物置きのようになっている浴室も多数にある。
入りたくても入れない筆者からすると羨ましい限りだが、一体なぜだろうか。

お風呂に対する考え方の違い

まずドイツと日本では水質が異なる。ドイツの水は「硬水」で、日本と比べてミネラル保有量が多い。水滴を放っておけば水垢が1日で付着するし、食洗機等はカルキ用の塩を常に入れて使用しないと、瞬く間にカルキで覆い尽くされ故障してしまうからだ。
水質が硬水であるがために、あまり皮膚によくないともいわれている。

ドイツの水道代は日本に比べ高額というのも、ドイツ人があまり浴槽を使わない理由の一つだろう。
ドイツの浴槽は日本のように追い焚き機能などはなく、さらに浴槽とシャワーが一体型となっているものが多い。1人ごとに毎回お湯を張り替えねばならないので、ただでさえ高い水道代が大変なことになってしまう。

ドイツの住居で多いものは貯水タンクにお湯がある程度溜めてあり、使用したら沸かして継ぎ足されお湯が供給される仕組みだ。だがお湯を大量に使うのを想定された作りではないので、お湯を出し続ければすぐに水しか出てこなくなってしまう。

筆者はドイツの湿度も関係していると考えている。日本は湿度が高く、一度汗をかくとベタついてしまうのでお風呂で汗を流さないと気分が悪い。しかし乾燥した気候のドイツでは、汗がすぐに乾くので不快感はそれほどない。

それでもお風呂が好きな人の為オアシス「温泉、スパ」

だがお風呂が全く人気がないかというと、そうでもない。日本ほど多くはないが、ドイツにも入浴施設がある。

筆者の住むドイツ中央部フランクフルト・アム・マインという街とその郊外には、いくつか大きめの入浴施設やスパがある。ドイツでいう入浴施設やスパは水着で泳ぐ温水(温泉)プール、混浴サウナが入っているものがほとんどで、ここでは比較的規模の大きい入浴施設を取り上げる。

フランクフルト・アム・マイン中央駅から電車で1時間ほどのところに、保養地となっているBad Homburg vor der Höhe という閑静な街がある。
Bad =お風呂 と名につく通り温泉が沸いていて、小さいながらもお城もあり旧市街などはちょっとした観光地といった雰囲気だ。
この街に興味深い入浴施設がある。「Taunus Therme」というアジアをモチーフにした入浴施設だ。

(引用: Taunus Therme タウヌス テルメ 公式HP

館内ではアジアの食事が楽しめて、アジア人である筆者からすると、東アジアや南アジアも混ざったやや奇妙な複合的アジアのモチーフに見える。こちらでは「アジア=温泉」のイメージが強いというところが大変興味深い。

ドイツの温泉は水温が37度前後と、日本に比べ低めの設定である。身体を温めるというよりは、プールで遊ぶような感覚で訪れる人が多いであろう。
値段については日本の大きめの入浴施設よりほんの少し高めである。

[平日]一般料金
 2時間券€19,00(約2687円)
 3時間券€21,50(約3041円)
 4時間券€23,00(約3253円)
 一日券 €29,00(約4102円)
※2023年1月現在、1ユーロ約141円換算

週末はさらに少し高くなるがお風呂好きには数少ない癒しの場であることは間違いない。

湯船よりもサウナ!

実はドイツ人にはサウナ好きが多く、Wellnessverbands(ヴェルネス協会)の調べによると健康やリラクゼーションとして定期的にサウナへ毎年約2500万人、人口の約30%が訪れている。
(引用:Saunazeit https://saunazeit.com/wie-viele-menschen-gehen-in-deutschland-in-die-sauna/

ロックダウン等の影響もあり筆者はまだ未経験であるが、経験者によるとドイツのサウナは全裸かつ混浴が基本で、混浴という点以外は日本のサウナほとんど同じらしい。
(水着着用、もしくは男女別のサウナは数が少ない。)

また、DIYというくくりにしてしまって良いのか少々疑問だが、ドイツ人が自宅にサウナ室を自らDIYしてしまう人もいるから、ドイツ人のサウナ愛の大きさには驚かされる。
ホームセンター等にも本格的な組み立て式サウナキットが売られており、そんなに好きならば自宅に自身でプライベートサウナを作ってしまおうということである。

筆者も以前、知人自ら作り上げたプライベートサウナを使用させてもらったことがあるが、入浴施設のサウナにも劣らないしっかりとしたものであった。
2〜3人ほど収容できるサイズのものが多く、サウナで汗をかき、テラスに出て熱を冷ます。そしてまたサウナへと、気軽に好きな時にサウナを楽しめる素晴らしい発想である。

ホームセンターで取り扱っている組み立て式サウナ €1699,00(24万円程から購入可能)
(引用:HORNBACH https://www.hornbach.de/shop/Saunen-Infrarotkabinen/Saunen/Plug-Play-Sauna/S22982/artikelliste.html

ドイツのお風呂用品

気候の違いや自家製サウナなど日本はと異なる点を紹介してきたが、ここではドイツのドラッグストアで気軽に購入できる入浴グッズを少し紹介しよう。
ちょっとしたプレゼントや自分へのご褒美として購入されることが多く、バスソルトなどは浴槽がなくとも芳香剤のように飾っておくこともでき、見た目も香りも華やぐので、気負わせないちょっとしたプレゼントにぴったりだ。

また、季節ものも多くこれから春になると「桜」を使った様々な入浴グッズがドイツでも出回りだす。
昨今のアジアブームもあり「SAKE(酒)」や「MISO(味噌)」など、日本語のまま意味が通じる言葉が増えつつあり、「SAKURA」とローマ字で表記している入浴関連の商品も暖かい季節になれば珍しくない。

ドイツでもお馴染みのフランス産コスメブランドGARNIER のヒアルロン酸と桜が配合されたパック。
小さく+SAKURAと記載されている。

[ドイツ大手ドラッグストアdmで購入可能なお風呂用品]

日本でも有名なクナイプ、ニベア等、色々なメーカーからお風呂用品が出ている。季節ごとに様々な商品が出回り、入浴剤はバリエーションも豊かだ。
洗顔用品、ボディー用品等、素材も用途も様々。
dmのプライベートブランドBaleaのバスボム。

ドイツのプライベートブランドはクオリティが高く、多くの人に愛用されている。香りや色味などは日本製品と比べると多少強めのものが多い。

バラ売りのバスオイル。

動物の形をしていたり大変可愛らしく、お湯にポンと入れると外装が溶け中身が出てくるようになっている。上にある袋に好きなものを欲しいだけ入れてレジに持って行くシステムだ。ひとつ€0,25(35円)と買い求めやすく、お土産にもおすすめ。

余談だが、入浴やサウナが好きな健康志向のドイツ人には、ドイツで売っている加糖の甘い飲みものではなく、中国や日本で一般的に飲まれている甘みのないヘルシーなお茶が徐々に人気を集めている。
サウナで汗を流し、失われた水分をお茶などで補給する。健康的な生活を好むドイツ人にとって、長寿で有名な日本で日々行われている何気ない文化は「健康ととても相性が良い」と今注目されはじめている。

浸透していないからこそ

日本ほど浴槽が各家庭に普及してないが、健康的に汗を流す場という点においては入浴以外のところに可能性があると筆者は感じている。
もしドイツ中央部で気軽に岩盤浴ができる場所があるのならぜひ筆者にお教え頂きたい。日本にいた頃は毎週末最寄りの岩盤浴があるスーパー銭湯へ通っていたほど筆者は岩盤浴が好きだ。
ドイツ全土と範囲を広げてみればゼロではないかもしれないが、少なくともサウナ程気軽に行ける場所にはないのであろう。日本では一般的な岩盤浴だが、ドイツでの知名度はほとんどないに等しい。

サウナ好きからするとその熱さがいいのだが、そうでない人たちが思うサウナの苦手な点は主にその熱さだ。
サウナの平均温度が70〜80度と高温なのに対し、岩盤浴の平均温度は40〜50度と低めである。
高温が苦手でサウナが好きではない人も始めやすい健康法だ。

浴槽を各家庭に普及させるとなると、水質、水道代や気候等多くの課題があるが、人々が集まれる入浴施設には大きな可能性がある。
私達にとっては身近でもドイツではまだ知名度が低いものは、認知されていないからこそ将来性があり、より良いビジネスに繋がるのではないだろうか。

いつかドイツで岩盤浴に通える日が来るのを夢見て、筆者は今日も1平方メートル程の控えめな我が家のお風呂場でシャワーを浴びる。

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